システム運用に関する運用要求の具体的な例をみていこう。システム運用とはその言葉通り,システムの日常的な運用を行っていく上で,前提条件となる様々な要求のことである。以下の要求項目がその主たるものである。

[システムの利用時間(ユーザーへのサービス提供時間)]
 最初に要求として定めるべきものは,システムの利用時間である。ここでいうシステムの利用時間とは,エンドユーザーにシステムを提供する時間を指す。エンドユーザーへのサービス提供時間と単純な意味でのシステム稼働時間は概念が異なることを意識したい。サーバーとしてのシステムは24時間稼働していたとしても,業務アプリケーションは8時から23時の時間帯だけエンドユーザーに提供するといったような違いだ。

 深夜,業務アプリケーションのサービスを停止してバッチプログラムを走らせ,バックアップを取得する時間に充てるという運用と,24時間業務アプリケーションのサービスを提供するという運用では,コストや運用負荷に大きな差が出る。もちろん後者の方が,負担は大きくなる。業務の特性や必要性から,システムの利用時間はきっちりと検討すべきである。

[システム利用のピーク時間・日・時期]
 業務上の特性から,ある時間帯や特定の日,時期などにシステムの利用が集中する場合は,その情報をベンダーに伝えるべきである。これは技術要求のパフォーマンスにも影響を与えるので,顕著なピークがある場合は必ず記述するようにしたい。

 一般的に,ピークとなるのは以下の場合が多い。

・始業時間直後 ・月末処理の時期(月末から翌月初にかけて) ・決算期(会社によっては年次決算だけでなく,四半期決算も該当する)

[バッチプログラムの実行時間]
 他のシステムとのデータ連携や月次処理などのバッチプログラムによる処理がある場合,そのバッチプログラムの稼働時間を確保すると同時に,ユーザーへのサービス提供時間とバッティングしないように,計算する必要がある。

[バックアップデータの取得]
 システムの種類にもよるが,毎日利用されている業務システムであれば,1日に1回はデータのバックアップを取得する。バックアップ取得において要求として考慮すべき点には,以下のものがある。

・バックアップ取得の対象範囲
 ─データのみ対象とする
 ─データ+ログを対象とする
 ─システム全体(データ+ログ+プログラム+その他)を対象とする

・バックアップ取得方法
 ─データ全体を丸ごとバックアップする
 ─前日との差分のみバックアップを取る
 ─スナップショットを取得する

・バックアップ取得のタイミング
 通常バックアップは夜間に取る事が多いが,夜間にバッチ処理を行う場合などはその処理が終了した後に取得したほうがよい。このような取得タイミングの要求があれば記載する。また,システムのプログラム変更やバージョンアップなど,なんらかの更新をする時にもバックアップを取得しておいたほうがよい。

・自動化の要求  バックアップ作業は,前述したように夜間になることが多いので,なんらかのツールを利用して自動化したいという要求があるだろう。これは特に記述しなくてもベンダーが自動化ソフトの導入を提案してくる可能性が高いが,ニーズとして明確であれば記述しておいた方がよい。

[バックアップデータの保存]
 取得したバックアップの保存期間に関する要求には大きく二つの観点がある。短期的な保存と長期的な保存である。ここでいう短期的な保存に関する要求とは,ある日に取得したバックアップを何日間保存するかということである。例えば,10営業日保存するという要求を出すとすれば,それを満たすためには10日分のバックアップデータを保管し,10日間が過ぎたら上書きや削除などを行うことになる。このようなバックアップ管理を「世代管理」と呼び,RFPの要求では「10世代のバックアップデータの保管が必要である」というような記述をする。

 長期的な保存とは,年度単位で決算が締まったタイミングなどでバックアップを取得し,保存することを指す。長期保存データに関しては,法令などによって保存期間が指定され義務付けられている場合があるので注意したい。5年,10年,あるいはそれ以上の保存を必要とする場合は必ず,要求事項として記述しよう。