政府のIT関連政策「新たな情報通信技術戦略」(新IT戦略)の雲行きが早くも怪しくなってきた。政府のIT戦略本部(高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部)では、「5月をめど」としていた新IT戦略の工程表の公表が遅れている。6月の中旬以降にずれ込む見通しだ。

 新IT戦略は、民主党政権の経済成長戦略の一翼を担う重要政策。国民生活の向上や経済活性化を図るための具体策だ。工程表はIT戦略の具体的な取り組みとスケジュール、担当省庁を明確にする重要な決定事項である。

 原因は、工程表作成作業自体の遅れに追い打ちをかけた政局の混乱だ。5月28日に福島瑞穂消費者・少子化担当相が罷免され、6月2日にはIT戦略本部の本部長でもある鳩山由紀夫首相が辞意を表明するなど、混迷が続く。このため肝心のIT戦略本部会合が招集できず正式な決定プロセスが機能しない。「現時点で公表の見通しは立っていない」(内閣官房 情報通信技術担当室)。

 新IT戦略では、電子政府や医療の高度化など、2010年度内に実施すべき施策が数多い()。電子政府への取り組みでは、これまでの情報システム投資が成果を上げられなかった原因を分析し、省庁業務の見直しと並行して2011年3月までに基本方針を決める。省庁業務システムを新しいIT基盤「政府共通プラットフォーム」に集約することも求められている。

表●政府が新IT戦略で明記した、2010年度中に実施する主な取り組み
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表●政府が新IT戦略で明記した、2010年度中に実施する主な取り組み

 国民が全国どこでも、自身の医療情報を使って診察を受けられる「どこでもMY病院」構想も、これまで成果を上げられなかった取り組みへの再挑戦だけに、困難が予想される。IT産業の国際展開や国際標準の獲得など、スピード感が求められる施策も多い。

 政権による強いリーダーシップは不可欠である。新IT戦略の行方は、新内閣により民主党政権が求心力を取り戻せるかにかかっている。