「プロジェクト・マネジメント体系のPMBOKに大きな穴がある。その穴というのはWBSの作成ルールだ」─。こう強調するのは,プロジェクト・マネジメントや開発方法論に詳しいプライドの大上建氏(常務執行役員 チーフ・システム・コンサルタント)である。事実,現場で広く使われるPMBOK(Project Management Body of Knowledge)は,WBSの説明が薄いといっていい。大上氏は「現場でWBSの作成に悩むのは,むしろ必然だろう」と,ルールのなさを問題視する。

 Part1ではそれを裏付けるように,読者4人のWBSには苦労の跡が見えた。4人は「重要なのは分かっているが,これまでWBSの作り方をきちんと学んだことはない」と口をそろえる。

抜け・漏れは論外,細かすぎてもダメ

 WBSは,プロジェクトの開始前にゴールまでの作業を見通したものでなければならない。Part1のWBSや,多くの取材の結果を見ると,WBSの作成には大きく二つの難しさがある。「どう洗い出すか」と「どこまで分解するか」だ(図1)。

図1●WBSの作成における二つの難しさ
図1●WBSの作成における二つの難しさ
WBSの作成方法に定石はない。「どう洗い出すか」「どこまで分解するか」という二つの難しさを克服するには,現場の知恵や工夫が不可欠である

 プライスウォーターハウスクーパースコンサルタントの桂憲司氏(パートナー)は「画面遷移図の作成といった基本的な作業が漏れることは少ないが,レビューや検討会議といった付帯作業の網羅性は低くなりがち」と指摘する。また,洗い出した作業に抜け・漏れがなくても,その粒度が粗ければWBSの読み手が内容を解釈できない。日立製作所でWBSの審査を手掛ける神子秀雄氏(プロジェクトマネジメント統括推進本部 担当部長)は「具体的な作業内容がWBSから読み取れなければ,メンバーはそれぞれの役割を認識できない」と注意を促す。

 ただし,すべての作業を細かくすればよいというわけではない。作業を細かくすれば,WBSの作成やメンテナンスの負担が大きくなる上に,計画値が細かすぎて管理負担も膨らむ。

 この二つの難しさを克服してこそ,“プロジェクトの道しるべ”という本来の役割をWBSは果たせるようになる。では,こうした難しさを現場ではどうやって克服しているのか。Part2では,「どう洗い出すか」「どこまで分解するか」という二つの難しさを克服した,現場の知恵と工夫を紹介しよう。