
WBSを作成する際には,思い込みや楽観的な予測を排除し,抜け・漏れのないように作業を定義する必要がある。加えて,WBSで規定する作業内容は適切な粒度まで分解し,記載する表現は分かりやすく,そして目指すべきゴールにたどり着けるものでなければならない。WBSの作成は,未知のプロジェクトを“先読み”するということでもある。定石がないだけに,WBSの作成には特有の難しさがある。
実際,WBSの作成はどれくらい難しいのか。これを検証するために,Part1では雑誌「日経SYSTEMS」の読者4人の協力を得て2009年11月末,ある例題を解いてもらった(写真1)。みなさんもぜひ,WBSの作成に挑戦してほしい。
提案作業をWBSとして定義する
ここで取り上げる例題は,提案作業に関するWBSを作成するものである(図1)。ある日,あなたのもとに提案依頼が舞い込んできた。内容は「プロジェクト・マネジメント(PM)支援システム」に関する提案を求めるものだ。提出期限は3週間以内。そこでリーダーであるあなたは,2人のメンバーとともに,提出すべき提案書と見積書を作成するための「提案プロジェクト」を立ち上げることにした。
やみくもに提案書と見積書を作成しても,良い提案にはならない。あなたは,提案プロジェクトの中で作成すべき成果物や,実施すべき作業をWBSとして作成することにした。WBS作成の制限時間は「40分」である。
“四者四様”のWBS
では,読者4人が作成したWBSを紹介する。講評は,WBSに詳しい日立製作所の初田賢司氏(モノづくり技術事業部 主管技師 兼 モノづくり強化本部 フェーズゲート推進プロジェクト)にお願いした。その結果,4人が作成したWBSの内容は,あと一歩のレベルに達していた。
1番目は,ユーザー企業の企画担当マネージャ(男性,41歳)が作成したWBSである(図2-1)。このWBSは,「編集」→「レビュー」→「修正」→「最終チェック」など,作業内容を時間軸に沿って洗い出しているので,作業同士の関係を理解しやすい。作業名の表現も分かりやすく,メンバーが作業内容を直感的に理解できるだろう。
一方,このWBSには「担当者アサイン」や「スケジュール管理」といった各メンバーにあまり関係がない管理系の作業が数多く含まれている。初田氏は「管理職の人ほど管理系の作業に目を奪われがち。本来細かく定義すべきシステムの検討作業が逆に薄くなっているのが惜しい」と説明する。手順を中心に作業を洗い出しているので「成果物が見えにくい」(初田氏)という面もある。
2番目は,ユーザー系システム・インテグレータのSE(女性,28歳)が作成したWBSだ(図2-2)。このWBSは,提案プロジェクトの「ゴール」が明確なのが評価ポイントである。初田氏によれば「提案先の情報を収集したり,アピールポイントを検討したりといった作業を洗い出している。より良い提案にするというゴールを意識した表れだ」と分析する。こうしたWBSは,メンバーの意識合わせがしやすいという。
一方でこのWBSは,同じ階層に意味や粒度が異なる内容が記述されている。例えば,検討する要素を指す「構築背景」と,具体的な作業内容を指す「要望把握」が同じ階層にある。また,肝心の画面や機能に関する作業が全く分解されていない。初田氏は「粒度をそろえて作業を分解していない結果。成果物を意識して洗い出せば,粒度がそろって抜け・漏れも少なくなっただろう」と改善ポイントを示す。