ここまでは作業の抜け・漏れ防止に注力する現場を見てきたが,Part3では,はもう一つの難しさである「どこまで分解するか」に話を移そう。

解決策(1):四つの観点に照らせば分解しやすい

 よくあるケースは,WBSの読み手であるメンバーが,洗い出した作業の手順をイメージできないという問題である。作業の粒度が大きすぎるのだ。

 作業の粒度を小さくしなければならないが,それは簡単なことではない。知識や経験が不足していると,具体的な作業内容を導けないことがある。

図1●四つの作業ステップで分解する
図1●四つの作業ステップで分解する
日立製作所の神子秀雄氏は,どんな作業も「準備」「実施」「審査/承認」「登録/展開」に分解できる点に着目。粒度の大きい作業を分解する際の考え方として推奨している
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 そんなとき,「四つの観点で作業をとらえれば,作業を分解しやすくなる」。こうアドバイスするのは,日立製作所の神子秀雄氏である。神子氏によると,どんな作業も「準備」→「実施」→「審査/承認」→「登録/展開」という四つの作業ステップに分解できるという。この四つの観点で粒度の大きい作業をとらえると,小さい粒度の作業に分解しやすくなるわけだ(図1)。

 例えば,「A機能の結合テスト」を四つの観点でとらえると,準備として「テスト・ケース作成」,実施として「テスト実施」,審査/承認として「結果分析」,登録/展開として「リポジトリ登録」という細かい作業に分解できる。もし「テスト・ケース作成」でも粒度が粗ければ,これをさらに四つの観点で分解すればよい。「作業の構造は“玉ねぎ”のようなもの。むいてもむいても大きさは違えど同じような層が表れる」(神子氏)からだ。

解決策(2):役割分担が明確になるまで細かくする

 分解するテクニックを理解しても,どの粒度まで分解すべきか悩むものである。粒度の大きさはあらかじめ明確な方針を立てておかなければならない。その方針は,WBSを利用するいくつかのシーンを思い浮かべると見えてくる。

 例えば「担当者が明確になるまで」というのがその代表だ。いうまでもなく,担当者があいまいな作業はトラブルのもと。責任のなすり合いに始まり,追加作業/コストの発生,やがてスケジュール遅延につながる。もちろん,こうしたトラブルを避けるために,担当者が明確になるように意識して作業を洗い出すだろう。それでも要件定義や移行など,開発側と利用側が緊密に連携する作業では,役割分担があいまいになりやすいものだ。

 電通国際情報サービスの松野篤志氏(ビジネスソリューション事業部 グループ経営コンサルティング1部 コンサルティング1グループ プロジェクトマネージャー)も,WBSの作成で最も重視しているのが,担当者を明確にできる作業の粒度である。松野氏は,役割分担があいまいになりがちな作業について,担当者が特定できるまでとことんWBSを分解している(図2)。

図2●担当者が明確になるまで分解する
図2●担当者が明確になるまで分解する
担当者があいまいな作業はトラブルのもと。電通国際情報サービスの松野篤志氏は,役割分担があいまいになりがちな作業について,担当者が特定できるまでWBSを分解している
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 一般に,図2上のような「新システムの入出力フォーム検討」という粒度で作業を定義。そして,役割分担として,担当者欄に「貴社は○」,「弊社は△(支援)」と書いて責任の所在を示すことがある。

 しかし,「△(支援)」とは何か分かりづらく,役割分担がはっきりしない。そこで松野氏は,図2下のように「現行入力シートのとりまとめ,提示」や「ヒアリングシート作成」「各部門ヒアリング」など,さらに細かい粒度に分解するようにした。担当の欄には「△」を付けず,どちらか一方の責任が明確になるまで作業を分解している。

 松野氏はさらに,具体的な該当部署も明記する。「会社単位の役割分担が明確になっても,当事者が自分たちの作業だと認識することが大事。実施担当者まで明らかにしないと,結局,役割分担がはっきりせずに作業が進まない恐れがある」(松野氏)。