1990年代にしきりに言われた「デジタルコンバージェンス」という言葉がある。デジタル技術を通して、通信、放送、出版といったメディアが融合していくことを表した言葉だ。iPadが登場した今、このデジタルコンバージェンスが、まさに現実になろうとしている。

現実となったデジタルコンバージェンス

 既にiPhoneで、その予兆はあった。iPhoneでは、今日の新聞、最新の雑誌や話題の新刊書、さらには見逃したテレビ番組、そしてラジオ受信の機能まできれいにポケットの中に収められる。こんなデバイスはこれまでになかったはずだ。

 朝出かける支度をしながら、iPhone版のウォールストリートジャーナル紙の新聞アプリで主な見出しに目を通す。その後、ローカルテレビ局が提供するiPhoneアプリ、例えばテキサス州オースチン市の住人なら「AUSTIN NEWS KXCAN.com」を使えばテレビで放映されたばかりの最新の交通情報を好きなタイミングで見られる。これを使ってハイウェイが渋滞していないかを調べ、クルマに乗ったらカーステレオキットにiPhoneを接続する。iPhoneのラジオアプリなら地元のローカルラジオ局だけでなく、出身地のラジオ放送も聞ける。

 お昼休み。ランチを食べながら雑誌「GQ」のiPhone版で気になっていたインタビュー記事を読む。記事を読んでいると画面に突如、警告が出た。CNNのアプリがBreaking News(速報)を伝えている。ニューヨークで大規模な鉄道のストが起きているようだ。液晶をタップ(叩く)して映像でニュースを確認する。

 しばらくすると、ニューヨーク本社からiPhoneに電話で、応援にかけつけてほしいと伝えられる。飛行場に着いたらiPhoneでiTunes Storeを呼び出し、機内で見たい映画を探す。前日のテレビドラマを見損ねていたのを思い出して、そちらを購入して視聴することにした。

 これらはすべて、米国では2009年時点のiPhoneで実現していたライフスタイルだ。ユーザーは、そのときの気分や状況に合わせて、音だけのラジオ、映像が付いているテレビ、写真や文字が主体の雑誌/書籍といったメディアをザッピング(切り替え)して楽しんでいる。かつてはザッピングと言えば、テレビという機械の上で、異なるチャンネルを切り替えることを指す言葉だったが、iPhoneの時代には、ラジオ、テレビ、雑誌、書籍、Webページそして電話越しの友人や同僚といった異なるメディアをまたいだ「ザッピング」が可能になっているのだ。

タイムやGQ、産経新聞などがいち早くiPadに対応

写真1●iPad対応した雑誌「TIME」<br>2010年4月12日号。アップルのスティーブ・ジョブズCEOが表紙。
写真1●iPad対応した雑誌「TIME」
2010年4月12日号。アップルのスティーブ・ジョブズCEOが表紙。
[画像のクリックで拡大表示]

 動きの速い出版社はiPadでも、もう行動に出ている。米国でのiPadの発売日だった2010年4月3日には、アップルのスティーブ・ジョブズCEO(最高経営責任者)を表紙にあしらった雑誌「タイム」の電子版がアップルのアプリ販売サイト「App Store」に並び、写真の圧倒的なきれいさでiPadユーザーをうならせた(写真1)。同時にバックナンバーの購入機能を内蔵した雑誌「GQ」のiPad版も登場。パソコン向けに2400の主要雑誌を流通していた米ジニオのリーダーアプリ「Zinio」もiPad発売と同時に登場し、主要雑誌7誌をiPad用のスペシャルフォーマットで提供した。

 日本でもiPad発売の5月28日までに、日本版のGQやVOGUEがiPad向けに発売したほか、電通とヤッパ社が運営する「MAGASTORE」で販売する多くの雑誌がiPadに対応。主婦の友社も、女性向けのファッション誌や育児雑誌などをiPadに対応させた。このほか、産経新聞や日刊スポーツもiPad用のアプリを用意した。さらに、ソフトバンクグループのビューンが6月から、iPadや携帯電話など向けに有名雑誌や新聞の主要な記事、そしてテレビニュースを月額450円で見放題にするサービスを開始している。