国内の大手IT企業が、クラウド事業の強化へ一斉に乗り出した。各社は自社データセンターを中心にした基盤技術の整備とサービスの強化、そして対応する組織の再編を急ぐ。ただしクラウドが迫る自己変革は、目先の事業強化にとどまらない。すでに一部の企業は、ビジネスモデル再構築をにらんで動き始めた。

 多くの企業でこの4月に始まった2010年度。国内の大手IT各社にとって、新年度の最重点施策の一つは、間違いなく「クラウド」だ()。

表●国内大手IT企業の、クラウド事業への取り組み
表●国内大手IT企業の、クラウド事業への取り組み
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 このうち、サービス面で頭一つ抜け出した感があるのが富士通である。最大の特徴は、仮想化したサーバーやストレージといったコンピュータ資源を貸し出す「オンデマンド仮想システムサービス」だ。

 同サービスでは、顧客企業がWebブラウザのGUI画面を通じてシステム構成を描く。手順は仮想マシンの性能やサーバーOS、Webサーバーソフト、ストレージ容量などを選んでいくというもの。標準構成から成るテンプレートを使うことも可能だ。

 料金体系は時間単位の従量制。既存の国内企業が提供する多くの仮想資源貸しサービスは月額制である。「最低契約期間などの制約は一切ない。システムを作ったり処理能力を増やしたりする作業は、5分もあれば完了する」(齋藤範夫サービスビジネス本部クラウドビジネス推進室担当課長)。

 料金水準の目安は、米アマゾンの「EC2」である。富士通は実際に、あるグループ企業の販売管理システムをアマゾンEC2で動かして料金を試算した。「アマゾンのサービスを企業が実用的に使うには、仮想マシンに加えて、処理のフェールオーバーなど様々な付帯サ ービスを使う必要がある」(齋藤担当課長)。試算の結果は月額十数万円になった。これを基に「同等のシステムを、月額8万~9万円で構築できるよう、料金を設定した」(同)。

相次いで基盤強化に乗り出す

 競合他社も、着々とクラウド基盤の整備を進めている。NECはサーバーとネットワーク機器、運用管理ソフトなどを組み合わせた製品「Cloud Platform Suite」を1月に発売。今後も、昨年10月に発表した基盤戦略「REAL IT PLATFORM Generation2」に沿って、製品・技術の強化を図るとする。

 特に注力するのが、データセンターの運用管理や資源配分を自動化・効率化する技術。「プロビジョニング」と呼ばれる技術だ。

 「現状は仮想マシンなどの処理能力を増強する際に、いくつかの『前提条件』が付く」(細田稔マネージドプラットフォームサービス事業部長)。事前に顧客が申請する必要があったり、処理能力を増強するのに数営業日かかったりするという。こうした現状を改善して、即座にシステム構成を変更できるようにする技術の開発を目指す。今年前半にも着手する。

 NTTデータは4月から、「BizCloud」ブランドの企業内(プライベート)クラウド構築支援サービスを開始する。これに先立ち、基盤の設計と移行支援のサービスを、2月から提供済みだ。4月からはグループウエアなどのSaaSも提供する。「顧客との接点になるフロントのサービスとバックエンドの基幹システムをつなぐ。当社のシステムインテグレーションの強みを発揮できる」(中井章文ビジネスソリューション事業本部サービス&プラットフォームビジネスユニット長)。

 日立製作所は自社の基盤強化に加えて、グループのIT企業を含めた総合力で挑む。特に最近になってクラウド関連事業を大きく強化しているのが、日立システムアンドサービスだ。2月にはアマゾンEC2などを使ったシステム構築サービスを開始。3月にはEC2など向けの管理技術企業の米ライトスケールと販売代理店契約を締結したと発表した。マイクロソフトが提供する「Windows Azure」にも注力する。宝印刷が2月に発表した上場企業の情報開示支援システムは、日立システムが構築した。

 日立はIT関連企業の再編を進行中。10月には日立システムと日立ソフトウェアエンジニアリングが合併する。狙いの一つが、「Harmonious Cloud」ブランドで展開するクラウド事業の強化だ。「両社のクラウド事業は強みとする分野が異なり、互いに補完できる」。日立システム企画本部SaaS事業推進センタの西條洋センタ長は、こう強調する。日立ソフトはセールスフォース・ドットコムの導入支援に実績を持つ。