ニコンの映像カンパニーが3年がかりでSCM(サプライチェーンマネジメント)改革を進めている。販売計画を週次で立案、受注から納品に至る業務を6週間単位でこなすサイクルを定着させた。改革に先立ち計画システムも刷新。プロジェクトマネジャは「計画を立てたら必ず実績を作る」を合言葉に販売会社や生産工場などと1000回もの協議を重ね、現場をプロジェクトに巻き込んだ。<日経コンピュータ2009年6月10日号掲載>

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 「打ち合わせは1回3時間前後、これを3年間でざっと1000回やりましたね」。ニコンの映像カンパニーで生産本部生産戦略部第二計画課に所属する臼井伸幸マネジャーはこともなげに語る。臼井マネジャーの予定表は打ち合わせの予定で埋め尽くされ、1カ月に150時間以上を現場の工場や販売部門との打ち合わせに費やすこともあった。

図1●SCM改革プロジェクトの推進体制
図1●SCM改革プロジェクトの推進体制
図2●計画システム刷新後の週単位の業務プロセス
図2●計画システム刷新後の週単位の業務プロセス
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 臼井マネジャーは、2006年から始まったグローバルSCM(サプライチェーンマネジメント)改革プロジェクトのリーダーを務める(図1)。このプロジェクトは、映像カンパニーの主力商品であるデジタルカメラを主な対象とする。16ある販売会社、4カ所の販売拠点、4ある製造子会社、外部の生産協力会社と本社を含むニコンのグループ全体で、販売計画など各種情報を共有し、棚卸し在庫の削減や受注から納品までの時間短縮を図る。

 映像カンパニーはニコンの売上高全体の7割近くを占め、09年3月期は5964億円を売り上げた。映像カンパニーのSCM改革の成否によって、ニコン全体の業績は大きく左右する。

 プロジェクトに当たってはSCMの業務プロセスを全面的に見直し、販売計画と生産の可否をすり合わせて計画を策定する計画システムを刷新した(図2)。この結果、「情報を週次で入力して管理し、現場も週次で動くプロセスをほぼ定着できた」(臼井マネジャー)。09年4月、ニコンは2月に下方修正していた3月期決算数値を上方修正した。商品の生産調整、在庫削減の努力が功を奏した格好で、ここにSCM改革は成果を上げつつある。

利用部門がプロジェクトを主導

 定着が難しいとされるSCM改革を映像カンパニーが軌道に乗せた成功要因は、何と言っても利用部門である生産本部がプロジェクトを主導してきたことだ。とにかく現場がSCMの仕組みを使えるようにするため、プロセスの見直しに1年近い時間をかけた。計画システムは現場が使いやすいパッケージを選定し、短期間で動かした。

 利用部門主導の姿勢はプロジェクトの体制図にはっきり出ている。最終責任者であるプロジェクトオーナーは、映像カンパニートップの木村眞琴プレジデント(ニコン取締役兼専務執行役員)が務める。さらに販売、生産、物流など各部門セッションを置き、販売会社や外部生産協力会社、物流会社なども参加する。

 プロジェクトリーダーとメンバーが全体会議で各部門の大まかな取り組みの方向を決め、各部門セッションでより詳細な実行計画を立てる。決定した新しい業務プロセスやシステム化の方針などの内容はステアリング・コミッティが承認する。コミッティにはプロジェクトオーナーや主管、リーダーのほか外部コンサルタントが参加した。