著者:日本OSS推進フォーラム
クライアント部会 大釜秀作

 皆さん、こんにちは。日本OSS推進フォーラム クライアント部会の大釜と申します。住友電気工業 情報システム部の人間でもあります。昨年度までプラットフォーム部会デスクトップ普及戦略検討タスクフォースでこれまで行われた議論を踏まえて、今年度より日本OSS推進フォーラムにクライアント部会が新設され、デスクトップ普及戦略検討の機能を引き継ぐとともに、クラウドコンピューティングのクライアントなどについても研究や普及のための活動を行っていくことになりました。今後ともよろしくお願いいたします。

 今回は、「クラウドコンピューティング」について、企業組織での利用を前提として、利用者の視点で少し考えてみたいと思います。

ベンダーから提案される「クラウド」に足りないもの

 このところ、いろいろなベンダーから「私たちのクラウドソリューションを使いませんか」、「御社のプライベートクラウドを立ち上げるソリューションがありますよ」という提案を数多く受けています。しかし、その内容をよく見てみると、とても利用者本位とは言えないと感じています。

 クラウドという言葉は、GoogleのCEO Eric Schmidt氏が「雲のような、巨大なインターネットにアクセスすれば、その利益、恵みの雨を受けられる時代になっています」という発言から生まれたと言われます。にもかかわらず、どうも今の日本の状況では「恵みの雨」を享受できるようになるとは思えないのです。

 ここから先はエンジニアの視線で、これまでベンダーから提案された内容を整理してみます。

 まず、個人的な利用であれ、企業組織での利用であれ、自分たちのプライベートな情報を「クラウド」に格納するわけですから、少なくとも「利用者の認証のしくみ」が「すべてのクラウド」で共通でなければお話にならないはずです。それなのに、そういった仕組みが「クラウドの基本的な機能として備わっています」という説明に出会ったことはありません。

 また、『「○○クラウド」に格納された情報を「△△クラウド」で利用する』ということも十分考えられるわけですが、そうすると「情報の格納・取得の仕方」も共通であるべきと思われるのです。しかし、そんな話も聞いたことはありません。

 安全性を高める「クラウド間の暗号通信や認証のしくみ」や、おそらくは「クラウド間の各種の調整や連携を行うプロトコル」といったものも必要になると思われるのに、これらについて日本のベンダーからはほとんど何も聞いたことがありません。