九州旅客鉄道(JR九州)は2009年3月1日、ICカード乗車券サービス「SUGOCA(スゴカ)」を開始した。システム投資とトレードオフの関係にある旅客サービスの内容・品質を抜本的に見直すことで、導入費用を当初想定の約3割減に抑えた。JR東日本が提供する「Suica」と同じ仕組みだが、最大トランザクション数は二ケタ小さい。過剰スペックのシステムを自社導入する工夫と決断に迫る。<日経コンピュータ2009年5月13日号掲載>

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 「明らかに過剰スペック。このままでは予算を大きく上回ってしまう」。九州旅客鉄道(JR九州)でICカード乗車券の導入プロジェクトが始まった2006年夏、大坪孝一カード企画室担当課長らが率いるプロジェクトメンバーは頭を抱えた。

図1●規模が二ケタ違うシステムと同じ機能・サービスを小規模システムで提供
図1●規模が二ケタ違うシステムと同じ機能・サービスを小規模システムで提供
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 ICカード乗車券の仕様はJR東日本が提供する「Suica」と同じ。だが、Suicaの発行枚数は約2800万枚であるのに対し、JR九州の計画では初年度35万枚、2014年時点で100万枚だ(図1)。トランザクション数もSuicaは1日当たり最大3000万件であるのに対し、SUGOCAは同80万件と二ケタも小さい。ICカード乗車券を実現するためにSuicaのシステムを丸ごと自社導入することは、同社にとって非現実的なことだった。

 システムを安く導入するだけなら、自前にこだわらず「借りる」という選択肢もある。実際、東京モノレールや東京臨海高速鉄道などは、JR東日本からICカード乗車券システムを借りている。しかし、「ポイントサービスなどを自由に企画できないため、事業の独自性を保てない」(大坪担当課長)といった理由から、自社導入は譲れないラインだった。

 それから3年後の2009年3月1日、博多駅を中心とする九州北部125駅でICカード乗車券サービス「SUGOCA」が始まった。開始1カ月で10万枚を発行するなど、滑り出しは好調だ。改札機や券売機といった設備投資を含む総投資額は約90億円。うちシステム投資は約20億円(本誌推定)。決して安くない投資だが、「当初想定していたよりも、システム投資を3割削減できた」とプロジェクトメンバーは胸を張る。