事業仕分けで、すっかり「時の人」となった民主党の蓮舫議員は、ネット上では、政界有数の“ツイッター議員”としても知られている。Twitterを始めてから4カ月足らずで、彼女のつぶやき(=Tweet)をフォローしている人は4万人近くまで達した(2010年5月現在は9万人)。
ほかにも民主党は多くのツイッター議員を輩出しているが、巻き返しを図る自民党も、広報本部が所属する全国会議員に対してツイッターの利用を促し、山本一太議員や世耕弘成議員らが相次いでツイッターアカウントを開設した。
しかしながら、こうした一連の動きを見ていて気になるのは、民主党も自民党も、ツイッターアカウントを開設して何かをつぶやくことが「目的化」してしまっているのではないか、ということである。ツイッターに関する企業の動きも同様だ。「話題になっているから」、あるいは、「競合他社が始めたから」という理由だけでツイッターを始めようとする企業が少なくない。
しかし、ツイッターを使って、「誰が」「何のために」「何をつぶやくか」について、明確な戦略を持たない場合、ツイッターは企業や政党の認知や支持を高めるどころか、むしろブランドを貶めてしまう危険もあることに注意すべきだ。
以前、与党のあるツイッター議員が、党本部で決められた政策について、「自分はそれを新聞報道で知り、さらに、それに対しては反対の意見である」という趣旨のことをつぶやいていた。しかしこれでは、党内のコミュニケーションに問題があることを印象づけるだけである。党や議員の政策に対する理解を深め、支持を獲得するという観点からはマイナスである、といわざるを得ない。
こうした行動から見え隠れするのは、投入する情報の量を増やせば、認知や支持は後からついてくる、との考え、誤解である。まだツイッターやブログなどの「ソーシャルメディア」を、テレビや新聞など従来型のメディアと同列にとらえているのではないだろうか。
PR会社の米ウェーバー・シャンドウィックが米国の大企業を対象に最近行った調査では、ツイッターの利用目的について24%の企業が「ブランドや認知の向上」と回答している。しかし、ソーシャルメディアが「ソーシャル」であるゆえんは、人びとのかかわりの中で成立するメディアだからだ。よほど受け手の琴線に触れる情報を発信しない限り、誰かが勝手に広めてくれるというものではない。
むしろ、ソーシャルメディアの可能性は、これまで目で見ることが難しかった「口コミの可視化」にある。現在および将来の顧客(あるいは支持者)が、自分たちについて何を語り、それをどのように伝えているのかを知る鏡になるのだ。ソーシャルメディアを通じて市井(しせい)の反応にどう対応すれば、ネット上に散在する「マス」との間に、一対一に近い関係、すなわち「エンゲージメント」を築けるかということをよく考えるべきだろう。
最近筆者は、日本でも話題になった書籍『グランズウェル ソーシャルテクノロジーによる企業戦略』(翔泳社)の共著者であるシャーリン・リー氏の講演を聞いた。そこで紹介されていたツイッター活用事例も、米スターバックスや米コムキャストなどの企業が、情報を発信する以上に、顧客の声を聞くことに力を注いでいるというものだった。
例えば、スターバックスは、ツイッターを通じて、新たな商品やサービスについてのアイデアを募っている。コムキャストは、カスタマーサポートとのコミュニケーション手段としてツイッターを利用しているという。
日本でもダスキンが昨年12月、期間限定ながら、掃除に関する相談をツイッター上で受け付けて回答するサービスを実施して話題になった。これも顧客との間に、エンゲージメントを築こうという取り組みの好例だろう。
こうしたことを実現するためには、タイムリーなレスポンスに必要な人員や体制に投資することはもちろん、つぶやきに企業の理念が正しく反映されるような「コミュニケーション戦略」が中心にあることが非常に大切だ。
ルグラン代表取締役
