企業ユーザーが最適解となるハイブリッド・クラウド環境を作り上げるには,多くの選択肢の中から適切なパブリック・クラウド・サービスを選ぶ必要がある。その際には,なんらかの共通指標があったほうが分かりやすい。

 ただ,その指標が十分でないことが,今の企業ユーザーのクラウドに対する不安につながっている。今のパブリック・クラウド・サービスのSLAは,ほとんどがサービス稼働率の提示にとどまっている(図1)。

図1●利用者がクラウドを選びやすくするために幅広いSLAの共通指標策定を求める<br>総務省のスマート・クラウド研究会の中間取りまとめ案や,経産省系の情報処理推進機構(IPA)がまとめた「クラウド・コンピューティング社会の基盤に関する研究会報告書(案)」では,幅広い項目のSLAや評価基準の標準化を求めている。
図1●利用者がクラウドを選びやすくするために幅広いSLAの共通指標策定を求める
総務省のスマート・クラウド研究会の中間取りまとめ案や,経産省系の情報処理推進機構(IPA)がまとめた「クラウド・コンピューティング社会の基盤に関する研究会報告書(案)」では,幅広い項目のSLAや評価基準の標準化を求めている。
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 そこで動いたのが総務省のスマート・クラウド研究会や,経済産業省の外郭団体である情報処理推進機構(IPA)だ。スマート・クラウド研究会が2月に公表した中間取りまとめ案や,IPAが同じく3月に公表した「クラウド・コンピューティング社会の基盤に関する研究会報告書(案)」では,幅広い項目のSLAや共通指標の策定を求めている。

 具体的には,確保されている帯域やセキュリティ・レベル,エンド・ツー・エンドのQoS,データ・センターのバックアップ/リストアといった項目だ。共通指標ができれば,「松竹梅」といったレベル別で多様なクラウド・サービスを比較できるようになる。

 SLAの共通指標は,次回で述べるクラウドの標準化の中で議論が進みそうだ。また政府系のクラウドの調達条件などにこのような項目が含まれていくことで,次第に共通指標が広がる可能性もある。

 SLAの共通指標化はサービス選択時のメリットのほかに,「クラウドとクラウドを連携させる際にも不可欠」(NTT情報流通プラットフォーム研究所の後藤所長)である。例えばA社のクラウドに障害が生じて,B社のクラウドに緊急避難させるといった連携を考えた場合,「両者でSLAの考え方に違いがあると,そのままではシステムやアプリケーションを移行できなくなる可能性が高い」(同)。ちょうど,システム連携の際にセキュリティ・ポリシーの一致を考慮しなければならないことと同様に,クラウド間でSLAの基準も合わせておく必要があるという考え方である。