デジタルサイネージは、屋外や店頭、交通機関などにおいて、ディスプレイなどの電子的な表示機器を使って情報を発信する情報メディアである。テレビや新聞などのマスメディア広告と違い、ディスプレイなどの設置場所に合わせて、エリアと時間帯を特定した広告ができる新たな広告メディアとして注目されている。また、デジタルサイネージに向けた伝送路として、2011年以降に予定されている携帯端末向けマルチメディア放送サービスやUHF帯のホワイトスペースの活用も期待されている。

 2007年6月に設立されたデジタルサイネージコンソーシアム(Digital Signage Consortium)(以降、DSC)は、デジタルサイネージ・システムの業界基準となるガイドライン「デジタルサイネージ標準システムガイドライン1.0版」(こちら)を2008年11月に策定した。今回は、DSCが策定した「デジタルサイネージ標準システムガイドライン」からコンテンツ/広告が様々なロケーションにあるサイネージ端末へ提供する仕組みについて解説する。

 デジタルサイネージコンソーシアム(DSC、理事長は慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科の中村伊知哉教授、広告会社やディスプレーメーカー、コンテンツ制作会社、通信キャリアなど約151社(2010年5月時点)が参加する業界団体)が策定した「デジタルサイネージ標準システムガイドライン(以降、ガイドライン)」は、大きく二つの要素で構成される。デジタルサイネージシステムが持つべき機能仕様と、異なるメーカーのデジタルサイネージ・システムを共通インタフェースでネットワーク化するためのインタフェースガイドラインである。

 これまでのデジタルサイネージシステムはスタンドアロンタイプがほとんどだった。端末の普及に伴いネットワークするなどシステムの選択肢が増え、業界標準となるガイドラインが益々重要になってきた。

インタフェースガイドラインの概要

 デジタルサイネージシステムを利用して、動画や静止画、文字情報などのコンテンツを表示するためには、まずが表示したいコンテンツをシステムに登録し、コンテンツ表示の順序、つまりスケジュールを設定する。ただし、現在のデジタルサイネージシステムの機能や仕様が標準化されていないことから、各社独自仕様で開発したシステムが導入されており、それぞれのシステムに合わせた形でコンテンツを制作・管理する必要がある。

 例えば広告代理店(広告主)が広告を出稿する場合、広告を出稿したい複数のデジタルサイネージシステムごとに、そのシステムに合わせた形式の素材などを制作する、さらに各システムの入稿ルールにしたがって登録する必要があり、手続きに手間と時間がかかるという問題がある。

 こうした問題が普及の妨げになっていることから、DSCではコンテンツ提供者に対する利便性の向上を目的に、デジタルサイネージシステムに共通に存在すべき基本的なインタフェースとして「コンテンツ提供者とデジタルサイネージシステム間の共通インタフェース」つまり「売り手情報と買い手情報をマッチングさせるためのインタフェース」(DSC事務局)をガイドライン化した。

広告主から見たデジタルサイネージフロー

図1●新しいデジタルサイネージフロー(出典:デジタルサイネージ標準システムガイドの図8.2-1を元に作成)
図1●新しいデジタルサイネージフロー
(出典:デジタルサイネージ標準システムガイドの図8.2-1を元に作成)
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 コンテンツ提供(広告主)から配信結果の取得までの処理の流れは、次のようになる(図1)。

(1)空き枠情報登録
 媒体主(デジタルサイネージ運用者)は、ディスプレイ単位で広告表示が可能な時間帯の空き枠情報を登録する。
(2)空き枠情報入手
 広告主であるコンテンツ提供者は、各デジタルサイネージステムからコンテンツを配信可能な場所と時間の「空き枠情報(ガイドラインでは表示可能情報)」を入手する。
(3)表示依頼
 入手した「空き枠情報」を元に、いつ、どこ(設置場所)で、どのコンテンツを表示するかを指定した「表示依頼情報」を、表示を希望する時間より前にデジタルサイネージシステムへ提供して表示を依頼する。
(4)表示結果(表示ログ)通知
 デジタルサイネージシステムは、表示依頼に基づきコンテンツをプレイヤーに配信し表示を行い、表示結果としてコンテンツ提供者に対する実績報告などに利用される「表示結果情報」を提供する。

メタデータ要素の概要

表1●DSCで策定したデジタルサイネージメタデータ要素(出典:デジタルサイネージ標準システムガイドの「10.Appendix」を元に作成)
表1●DSCで策定したデジタルサイネージメタデータ要素
(出典:デジタルサイネージ標準システムガイドの「10.Appendix」を元に作成)
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 こうした一連の処理の流れにおいて、コンテンツ提供者とデジタルサイネージ・システム間でやり取りするための共通メタデータ要素をガイドラインでは次のように定義している(表1)。

(1)空き枠情報のメタデータ要素
 空き枠情報のメタデータ要素として、設置場所や主要視聴者の年齢層、主要視聴者の性別、接続している表示端末に関する情報などの「プレイヤー情報」と、表示可能な日付、時間を表わす「表示可能日時情報」から成る。
(2)表示依頼情報のメタデータ要素
 表示依頼情報のメタデータ要素として、素材に関わる情報(タイトル、概要、尺、動画・静止画フォーマット、制作に関する情報や権利に関する情報など)や、素材の中で表している商品に関する情報(商品名、商品ジャンル)などの「コンテンツ属性情報」と、「プレイヤー情報」、「表示日時情報」およびコンテンツの有効期限を指定する「表示有効期限情報」から成る。
(3)表示結果情報
 表示結果情報のメタデータ要素として、実際に表示した「コンテンツ情報」と、「表示端末情報」および「表示日時情報」から成る。

 なお、2010年1月28日にNTTが発表した「ひかりサイネージ」は、DSCが策定したデジタルサイネージ標準システムガイドラインに沿った形で、NTTが仕様策定したインタフェース「共通IF」を実装している。