NTT西日本の子会社が他事業者の顧客情報を不正に使用していたという問題が発覚し、総務省は再発防止のための業務改善命令を同社に命じた。業務改善命令以降、この問題に関する報道が少なくなっているが、決して問題が解決したわけではなく、顧客情報が不正に利用された側の事業者(被害事業者)とのやり取りが続いている。むしろ被害事業者側は、今回の件について問題の徹底的な究明と、より実効的なドミナント規制の実現を求めで活動を強化する方針だ。「現行のドミナント規制の限界を示す根深い問題を含んでいる」と考えるからだ。

 今回の問題は、NTT西日本から業務委託を受けているNTT西日本-兵庫が、他事業者のDSL利用情報や他事業者へ移行した番号ポータビリティ情報などの属性情報を販売代理店に提供していたというもので、2009年11月18日にNTT西日本が報道発表を行った。NTT西日本は総務省の求めに応じ、2009年12月17日に事実関係と原因、再発防止措置をまとめた報告書を総務省に提出した。その後紛争処理委員会で審議が行われ、2010年2月4日に総務大臣からNTT西日本に業務改善命令が、また同様の顧客管理システムを用いていたNTT東日本に対して行政指導が行われた。

 被害事業者側はNTT東西地域会社に対し(1)問題の経緯についての詳細な説明と、(2)業務改善計画の進捗状況についての定期的な説明――の2点を求める方針である。今回の問題の経緯については、NTT西日本から総務省に対して報告書が提出されているが、当事者である被害事業者に対しては、この報告書の内容は公開されていない。そのため被害事業者側は、どの顧客情報がどういう形で不正に利用されたのか、十分に把握できていないという。またNTT西日本の発表では、県域の地域子会社で不正な情報利用があったいう説明になっているが、これについて被害事業者は「地域子会社だけでなくNTT西日本自身も関与していた可能性があるが、そうした基本的なことすらNTT側からは説明がない」と不信感を隠さない。なお本誌の取材に対し総務省は、「今回の問題ではNTT西日本自身の関与が認められた。それがNTT西日本に対して業務改善命令を行った理由でもある」と回答した。

 被害事業者らは詳しい状況が分からないことから、NTT東西に対して説明を求めた。これを受けて2010年4月下旬に、「ADSL」と「番号ポータビリティ」の接続サービス別に二つのグループに分かれて、NTT東西から説明を受ける機会があった。しかしここでも過去に行われた報道発表以上の具体的な説明はなかったという。被害事業者側はNTT側の業務改善計画について「内部監査の強化や第三者機関によるチェックを行うとしているが、監査体制やその透明性をどう確保するのか、実施時期などの具体的な説明が不足している。そもそも問題の経緯すら当事者に十分に説明されていない現状で、改善計画の実効性はとても期待できない」と問題点を指摘する。

 こうした経緯から被害事業者側は、NTT東西による業務改善計画の進捗状況を確認するために、両社に対して定期的な説明会の開催を求めている。総務大臣が行ったNTT東西に対する業務改善命令および行政指導では、総務省に対して3カ月ごとに実施状況を報告するように求めている。「総務省に報告するための資料を作るのであれば、それを基に被害事業者に対しても説明できるはず」だという。NTT東西の対応に進展が見られない場合は監督官庁である総務省への直訴も辞さない考えである。ある事業者は「回答の期限は指定しないが、総務省に最初の報告が行われる5月末が一つの区切りとなるだろう。5月末まで1週間を切っても事業者に対する説明会の案内がなければ、説明する意思がないと判断し総務省に相談したい」とコメントした。

 ADSLや番号ポータビリティなどのサービスを利用者に提供する上で、NTT東西は競合事業者の利用者情報を知りうる立場にある。そのため競合事業者の間には、「NTT東西が業務上知りえた他社の顧客情報を使い、自社サービスの営業活動を有利に行っているのではないか」という疑念が以前からあった。通信事業者が接続の業務に関して知りえた情報を、本来の目的以外の用途で利用したり提供したりすることは電気通信事業法で禁止されている。しかし実際には、顧客情報の不正流用が疑われる事例があってもそれを立証することは難しく、さらにNTT東西が通信事業者ではない県域子会社や関連会社に営業業務を委託した場合は、実際の営業活動を行う関連会社が電気通信事業法の規制対象から外れてしまうことから、実効性に欠ける問題があるという。こうした理由からある通信事業者は、現状を改善し公正な競争環境を確保するためには、子会社も含めたグループの総合的な市場支配力に基づくドミナント規制の導入が必要だと指摘した。

 総務省のICTタスクフォースは、ブロードバンド普及に向けた公正な競争環境の整備を推進するための方向性を示したところだ。被害事業者らが指摘する現行のドミナント規制の問題点が、今後の政策でどう解消されるのか注目される。