文:斉藤 正光(地域総合整備財団[ふるさと財団] 地域再生部参事役)

 ほとんどの観光客が携帯端末などを持参する現在、観光地でしか入手できない「現地情報」をタイムリーに提供し、観光客の満足度を高めることが大事である。満足度が高まれば、観光客はその地のリピーターとなり、口コミを通してスポークスマンにもなってくれる。

求められる3種類の「現地情報」

 観光客が現地で求める情報は3種類に大別できる。(1)到着した観光施設内での観光ガイド情報、(2)食や土産品に関する情報、(3)旅先での移動などをサポートするヘルプ情報---である。

 観光ガイド情報としては、例えば観光客が史跡を訪れると、由来する人物や時代背景(事前情報)は出発前に調べてあっても、史跡のたたずまいやその場の空気に触れてはじめて、知りたいと感じる情報がある。観光客が思いをはせるのに必要な情報が、観光ガイドのようにタイムリーに手元の端末などに配信されれば、満足度は格段に高まる。

 食や土産物に関する情報は、民間の各種サイトにあふれている。自治体としては、地域の資源を生かしてどのように名産品が出来上がるのか、なぜこの土地でしか作れないのかなどの情報に特化したほうがよい。名店街の情報やイベント情報も、民間では扱いにくい現地情報である。

 ヘルプ情報は、目的地までの最適な交通手段や経路、所要時間などの情報や、ガイドブックには掲載されていない場所、次の目的地や移動手段を選定するのに必要な情報である。観光地の多くは公共交通の利便性が低く、子ども連れの遊び場所やシニア向けの休憩所も少ない。自治体が中心になって発信すべき情報だろう。

 これら3種類の情報は、事前情報とは異なる内容で、入手の手軽さに配慮して発信するのが望ましい。

世界遺産を映像・音声でガイド

 現在、携帯端末などを活用して、現地情報の提供を試みている自治体は数少ない。まだ小規模だが、最近の2つの実験事例を見てみよう。

 まず、沖縄県南城市にある世界遺産「斎場御嶽(せーふぁうたき)」の映像・音声ガイドである。斎場御嶽は、神拝の行事「東御廻り(あがりうまーい)」の巡礼地の一つ。聖地を守るとともに地域を正しく知ってもらうために、巡礼のマナーや聖地に関する基礎知識を紹介した。

 2009年12月下旬から2010年1月末の実験では、訪問者に携帯端末「iPod Touch」を無料で貸し出し、市のサイトでの事前情報とは異なる現地情報を発信した。具体的には、全体マップを示し、ポイントごとに映像・音声・文字で解説を行うとともに、地元ガイドでは難しい外国語対応(英・中・韓)も行った(図1)。また、斎場御嶽の歴史学習体験施設に設置したフェリカのリーダー/ライターに携帯電話機をかざすと、コンテンツサーバーから同様の情報を入手することもできる。

写真1●世界遺産「斎場御嶽」の映像・音声ガイドの端末画面例
写真1●世界遺産「斎場御嶽」の映像・音声ガイドの端末画面例
[画像のクリックで拡大表示]

 現地情報の発信により、観光ガイドがいないとわかりにくい巡礼空間の意味やポイントも見過ごさず、観光客はそれぞれに古代に思いをはせたり、思い思いの記念写真を撮影できる。実験に協力してくれた観光客の満足度は高かった。周辺地域の観光資源の情報も提供したが、アクセスは少なかった。本格運用に向けては、コンテンツの拡充や提供方法の検討が必要だろう。