by Gartner
ジム・ロングウッド リサーチVP
足立 祐子 リサーチディレクター

 ガートナーはこのほど、日本を含むアジア太平洋地域における、オフショアサービスの推奨10カ国を選定した。10カ国はアルファベット順に、オーストラリア、中国、インド、インドネシア、マレーシア、ニュージーランド、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナムである。

 この地域において、インドがオフショアにおけるリーダー的な立場にあり、それを中国が追いかけるという構図に変化はない。しかし、マレーシアやフィリピン、ベトナムといった新興国が、新しい選択肢として台頭している。

 これら新興国は、オフショアを受注するための投資を大胆に行っており、低コストのオフショアサ ービスへの需要の高まりに、うまく応えている。

 インドのITサービス輸出は依然として成長しているが、オフショアの世界市場に占めるシェアは減少している。インドは現在、賃金レートの上昇や離職率の増加、地政学上の問題(例:ムンバイのテロ事件)や金融市場における不正(例:サティヤムの粉飾決算)などに直面している。こうしたインドの足踏みが、他のアジア新興国にチャンスを与えた。

 特にマレーシアやフィリピン、ベトナムなどが、コールセンターや物流、バックオフィス機能のオフショアリングというニッチ市場で、インドのシェアを浸食している。マレーシアやフィリピン、ベトナムは、域内の成熟国・地域であるオーストラリアや香港、シンガポールに隣接する。物流などのサービスのオフショアリングを受注する上では、成熟エリアに隣接しているほうが有利だ。

 今回初めてトップ10に入ったインドネシアは、豊富な労働力と充実した産業インフラを背景に、ITとビジネスサービスの有力なオフショア先になった。

 インドネシアの代わりにトップ10から陥落したのはパキスタンだ。サービスのパフォーマンスが低下したというよりも、同国の政情不安が陰を落とした。

 オフショアリングのコスト削減は、セキュリティやデータ、知的財産権の保護、コンプライアンス順守などと、トレードオフの関係にある。

 オーストラリアやシンガポール、ニュージーランドといった成熟国へのオフショアは、コスト削減効果は限定的だが、政治や経済が安定しており、セキュリティ水準が高いというメリットがある。一方、ベトナムのような新興国は、コストは圧倒的に安いが、セキュリティやデータ、知的財産権の保護はあまり見込めない。またタイやベトナム、フィリピン、インドネシアは、政治や経済環境に不安がある。

 インフラはベトナムとインドネシアを除くとよく整備されている。欧米企業にとっては、中国、インドネシア、タイ、ベトナム以外の国は、言語や文化の相違が少ない。

 日本企業にとっては、日本語の能力がロケーション選定の第一条件となる。中国とインドは今後も主要なオフショア先であり続けるであろう。IT分野での日本語教育を強化しているベトナムとタイが、その後を追う構図である。当地域での日本企業のビジネス拡大に合わせ、インドネシア、シンガポール、マレーシア、フィリピンのオフショア拠点としての重要性も徐々に高まるとみている。