今回のテーマは提案書の作成です。提案書に唯一の絶対の書き方はありません。ただし、提案書を作成する際に考慮した方がよいものはあります。今回はそれを解説します。

 営業に配属されてから、ちょうど3カ月が経ちました。先輩との営業同行にも慣れ、最近はお客様への訪問が楽しくなってきたところです。

 昨日、先輩からピーター・ドラッカーという学者の話を聞きました。ドラッカーがある大手製薬会社のコンサルティングをしていたとき、CEOから研究部門の成果を向上させてほしいとの依頼があったそうです。そこで、ピーター・ドラッカーは研究活動に医療、マーケティング、生産の専門家を参画させたところ、5~6年後には研究部門の成果が倍増したという話でした。

 自分はエンジニアとしてずっとやってきましたが、今は営業をしています。ドラッカーが行ったような異なる専門家同士の協業で、エンジニアの生産性を高めることができるのではないかと思いました。今後のために、いろいろな経験を積むことは決してマイナスにはならないと思います。

 さて、今日は珍しく一日中社内で提案書の作成作業です。外は雨ですが、今日は外に出ないので関係ありません。窓の外に目をやると、東京スカイツリーが徐々に出来あがっていく姿が見えます。前に見たときはそんなに高い建物ではなかったのですが、もう東京タワーを追い抜いたそうです。しみじみと時の流れを感じます。

 提案書の作成作業は、五十嵐先輩にやり方を教わりました。その時に言われたことは、「とりあえず」提案書を書き始めるのは「愚の骨頂」だということです。

【Tips13】「とりあえず」提案書を作成してはいけない。まずは提案書のシナリオを作成する

 最初にやるべきことは、「提案書のシナリオ」を作ることだそうです。でも、シナリオと言っても、どんなシナリオがいいのでしょうか。うーん、困ったな…。

 そこで、以前五十嵐先輩のプレゼンテーションに同行した時のことを思い出して、それを書き出してみます。

1. 目次
2. 挨拶、自己紹介、会社案内
3. 提案の場を頂いたことのお礼

 ここまでは何となく思い出せるんだけど…。次は何だったかなあ。そういえば、提案の経緯や背景を説明していたっけ。「初めてこれにかかわる人も出席している場合は、背景をちゃんと説明するように」って、五十嵐先輩が言っていた気がする。よし、4番目は提案の背景だな。

4. 提案の背景

 次は…、ここでうちからの提案だったかな?どうも違う気がする。いきなり提案はなかったはずだ。五十嵐さんは何と言ってたっけ?

 そうだ、「うちからの提案をいう前に、必ず確認しなければいけないことがある。これを忘れると、せっかくの提案も聞いてもらえない。それは、提案の前には、お客様の抱える課題と、お客様の要望を確認することだ。提案書には絶対入れること」。

 そうか、こうだった!

5. お客様の抱える課題
6. お客様からの要望
7. 当社からの提案

 これで大丈夫だ。「我々は皆様の課題と要望を正しく把握しています」とアピールできるな。

【Tips14】自社からの提案を述べる前に、顧客が抱えている課題と、顧客からの要望を入れる

 これで、後はスケジュールや、体制、コストを入れておしまいだったかな?何か足りない気がする。何だろう?五十嵐さんは、この当社からの提案の後に、ものすごいお客さんの心をつかんでいたような気がする。そこで、何か言ってたな。つかみ、つかみ…、うーん。

 アイデアがどうしてもでないので、机に置いてある雑誌を眺めます。何かヒントはないかと、それをパラパラとめくると、ふと、その中の広告の一文に目が止まりました。そこにはこう書いてあります。

 「ここが違う、○○トラベルの旅、三つの違い」

 その文章を見ていてはっと気づきました。そうだ、提案の次には「我々の提案と他社の提案の違い」が入っていたんだ。五十嵐先輩はここで、聞いている人のハートをつかんでいたんだ。

8. 他社との違い
9. 体制、スケジュール
10. コスト

【Tips15】提案の後には「他社との違い」を入れる

 提案書に唯一の絶対の書き方はありません。企業の個性、顧客の個性に合わせて異なると思います。ただし、提案書を作成する際に考慮した方がよいものはあります。それが、ここで紹介したTipsです。

 まずはシナリオをしっかり作り込むこと。これをやらない人はほとんどいないかもしれませんが、聞いている人を引きつけるためには映画と同じくシナリオが命です。シナリオがつまらなければどんなに提案の中身が良くてもつまらない提案書となってしまいます。

 シナリオを作るときは、二つのアピールポイントを意識して作るとよいでしょう。逆に言えば、これがなければ提案書は読みづらく、顧客に提案の真意を理解してもらえない可能性があります。

 一つ目のポイントは、お客様の課題と要望をきちんと最初の時点で確認すること。課題と要望を最初に確認し、「この課題解決のための提案ですよ、この要望への提案ですよ」とアピールします。ここを外すと、何のための提案か分からなくなります。

 二つ目のポイントは、提案の後に「他社との違い」を入れることです。顧客は様々な提案の中から一つの提案を選択します。最後に残る一つになるためにはその提案に「きらりと光る何か」が必要です。「違い」が明確であって、顧客の要望に沿うものであれば、自社の提案を選択してもらえる可能性は高くなります。

安達 裕哉(あだち ゆうや)
トーマツイノベーション シニアマネージャ
筑波大学大学院環境科学研究科修了後、大手コンサルティング会社を経てトーマツ イノベーション株式会社に入社。現在、主としてIT業界を対象にプロジェクトマネジメント、人事・教育制度構築などのコンサルティングに従事する。そのほかにもCOBIT、ITサービスマネジメント、情報セキュリティにおいても専門領域を持ち、コンサルティングをはじめとして、企業内研修・セミナー活動を積極的に行う。