クラウドコンピューティングに対する期待が急速に高まり、多くの企業で利活用の方法が具体的に検討されています。クラウドコンピューティングの一般的な利活用のモデルには、単純なアウトソーシングやサーバーの仮想化だけではない、ユーザーの期待があることを認識しなくてはなりません。

 クラウドコンピューティングとは何でしょうか。米国国立標準技術研究所(National Institute of Standards and Technology, NIST)がクラウドコンピューティングの定義を公開したことで明確になってきました。

(1)On-demand self-service
 ユーザー側から自動的に、必要な機能のプロビジョニングが可能である
(2)Broad network access
 さまざまなクライアントから標準的なネットワークプロトコルで利用できる
(3)Resource pooling
 コンピュータ資源が、マルチテナントモデルでプールされ、複数のユーザーに提供可能である。ユーザーは資源の物理的な位置に関知しない
(4)Rapid elasticity

 提供される機能が、迅速に、弾力的にプロビジョニングできる
(5)Measured Service

 メータリング機能を使って、計算機資源の利用状態をコントロールしたり最適化したりできる

 クラウドコンピューティングは、ネットワーク経由で使いたいサービスをユーザー自身がカスタマイズして活用できるモデルのことです。

 ユーザーは、サービス提供者がWeb上で公開しているサービス内容を確認しつつ、CPU数やメモリー量、OSなどの選択肢をカスタマイズしていくやり取りの中でサービス内容をよく理解し、その上でSLA(Service Level Agreement)などサービスの質や価格に納得したときに「BUY IT!」ボタンをクリックします。

 サービスが要求されたら、サービス内容は自動的に処理されて標準化されたシステムが提供されます。企業内で構築されるプライベートクラウドにおいても、こうしたユースモデルが求められます。

クラウドコンピューティングに対する期待

 企業システムにおけるクラウドコンピューティングに対する期待は大きく二つあります。

 一つは企業システムにおけるシステム投資のあり方です。コンピュータの分散化が進んだ結果、全世界のコンピューティングリソースのうち85%の能力がアイドリングしており、資源効率が極めて悪い状況になっています。コンピュータは投入された電力をすべて熱に変換してしまうため、グリーン化の観点からも資源の無駄は大きな問題になっています。

 集中化していたホストコンピュータの時代では、資源の利用率は常時監視管理されており、適切な利用率で運用されてきました。システム投資した経営層は、過剰設備ではなく「適切な投資だった」ことが納得できました。

 システムが分散化した結果、資源管理も同様に分散化してしまいました。その結果、投資に見合った利用がされているかどうかを把握するのは難しくなっています。現状の管理形態はシステムごとに異なるケースが多いですが、それを標準化し、資源の利用効率を高め、総合的な投資効率の判断材料を提供していかなくてはなりません。

 もう一つの期待は運用費用の削減です。別の統計によるとシステム経費1ドル当たり70セントが既存システムの運用保守に振り向けられており、新規システムに対する投資額をはるかに上回っています。

 さまざまなプラットフォームを利用している分散システムの運用には、多くのコストが支払われています。このコストは企業における競争力を維持するために必要とされているものの、一方で競争力強化の投資を圧迫していることも事実です。システムの運用管理を標準化・自動化し、運用のシンプル化が求められています。