「顧客の正しい連絡先や担当者がすぐに分かるようになり、連絡ミスが減った」「サービスごとに違うIDを入力する手間がなくなり、非常に使いやすくなった」。ディーコープで顧客マスター統合と新システム構築を担当した田中聡 事業戦略部経営企画グループマネージャーのもとには、マスター統合の効果を実感した業務部門や顧客からの声が数多く寄せられている。

ソフトバンクの100%子会社であるディーコープは、「見積@Dee」など企業の購買活動を支援する複数のサービスを提供している(図1)。見積@Deeを例にとると、見積@Deeのサイトに登録したバイヤー(買い手企業)が、「~の部材を~だけほしい」といった具合に調達条件を入力し、「オークション」や「概算見積もり」など商談の形式を選ぶ。その情報を、同じサイトに登録したサプライヤ(売り手企業)が閲覧、条件に合った提案ができる場合はその旨をサイトに入力し、他社と受注を競う。現在バイヤー、サプライヤ企業の担当者約4万人がサービスを利用している。
今回の新システム構築の狙いは、ディーコープの業務効率を向上させることだ。関連するサービスを一つのシステムにまとめ、それに合わせて業務の流れを見直す。さらに新システム構築と同時に実施したマスター統合によって、システムの運用面の改善、顧客サービスレベルの向上が図れた。
マスターを仮想的に統合
マスター統合とは言っても、ディーコープはマスターデータを物理的に1カ所に集めたわけではない。「見積@Dee」「契約@Dee」「@Dee稟議」といった各サービスのアプリケーションは、それぞれが顧客マスターを持ったままだ。つまり、マスターデータは“仮想的”に統合されている(図2)。
仮想的なマスター統合の仕組みはこうだ。複数のサービスで同じ顧客のマスターデータを保有している場合、どのマスターのデータであっても同じになるように整理した。その上でマスター間の整合性をとる仕組み(ハブシステムと呼ぶ)を用意している。
例えばバイヤー用のマスターを更新する場合、契約@Deeあるいは@Dee稟議が使っている住所や担当者などのバイヤー情報を更新する。契約@Deeは、発注先と契約した後に購買内容を必要時にすぐ確認できるよう、契約書、発注書、申込書などを保存しておくバイヤー向けサービスだ。@Dee稟議も同じくバイヤー向けで、バイヤー社内における稟議の流れを記録し、承認作業を円滑に進めるためのものだ。
バイヤー用マスターを更新すると、更新情報をハブシステムが定期的に把握し、マスターデータリポジトリを更新する。リポジトリは、同じバイヤーのデータを持っているマスターに、更新後のデータを送る。こうして、新しいデータがすべてのマスターに反映される。各マスターへの反映は日に2回、バッチ処理で行う。ハブシステムにはインフォテリアのマスター連携ツール「ASTERIA MDM One MH」を利用した。
すべてのマスターを物理的に統合して各アプリケーションを直接つなぐ方法を採らなかったのは、アプリケーション改修の負担を考慮したため。田中マネージャーは「ハブシステムを使う方法なら各アプリケーションと接続するマスターは変えずに済む。そうなれば、既存のマスターやアプリケーションを生かせる」と話す。
実際、2006年12月に追加した契約@Dee、07年10月に追加した@Dee稟議のアプリケーションとマスターは、今回の新システムにおいてもそのまま利用している。一方、オークションと見積もりのアプリケーションは再構築し、二つのアプリケーションを統合した。以前から「見積@Dee」の名称でオークションと各種見積もりサービスを提供していたものの、アプリケーションとマスターはオークションとそれ以外の見積もりサービスで異なっていた。