写真1●実験に使った受信機システム(左)と閲覧端末(右)
写真1●実験に使った受信機システム(左)と閲覧端末(右)
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 2011年7月24日までに、地上アナログテレビ放送が終了し、2011年以降に新しいデジタル放送サービ「携帯端末向けマルチメディア放送」が予定されている。この放送では、IPパケット放送や蓄積型放送が可能となる。また、現在開催中の通常国会での成立を目指している放送の融合法案では、放送波による通信サービスも可能としている。こうした新しい枠組みが出来上がることで現実味が増しているのが、放送波を利用した新聞・雑誌のデジタル配信である。

 デジタル放送を活用した新聞・雑誌のデジタル配信するプロジェクトを推進するAMIO(AMIO=All Media In One)フォーラムは、IPパケット放送に対応させたエリア限定ワンセグを利用した新聞・雑誌のデジタル配信の公開実験を2010年3月2日に実施した(写真1)。今回は、このAMIOフォーラムが進めるデジタル放送を利用した新聞・雑誌のデジタル配信について解説する。

 既存の紙メディアは、編集加工の段階でのデジタル化が急速に進展してきているが、インターネットを利用したデリバリーはまだ主流になってはいない。また、現在の新聞・雑誌等の電子書籍のネットワーク配信は、各種の配信サービスがあるが、デジタルテレビやパソコン、モバイル端末、電子書籍端末などの閲覧端末、各種アプリケーションが多様に存在しており、各々個別に対応が必要となっている。

 AMIOフォーラム(代表は慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科の中村伊知哉教授、放送事業者や家電メーカ、新聞・出版企業など全35社が参加する任意団体)は、放送と出版の融合を図り、デジタル放送を活用した新聞、雑誌等の紙メディア完全デジタル配信の実現を目的に活動を行っている。総務省の「ICT経済・地域活性化基盤確立事業(ユビキタス特区事業)」の委託先となっているネクストウェーブ社の「放送による新聞・雑誌等紙メディアのデジタル配信」プロジェクトと連携し、実際のデジタル放送電波を使った実証実験を通じて、早期実現に向けた諸課題の整理、解決策の検討を進めてきた。

 2009年度は、新聞や雑誌のデジタルコンテンツを放送と通信などの配信プラットフォームに依存しない、入稿データから送信用フォーマットへの自動変換フローを検討した。自動変換に必要な制作時の注意点や変換手法などを記載したコンテンツ制作ガイドラインの策定に加え、コンテンツのタイトルや、拡大・縮小、拡大・縮小時の座標値、オーバーレイ表示する場合の透明度、スライドショー表示する場合の時間などのコンテンツの表示方法などを規定したメタデータとプレゼンテーションガイドラインを作成した。その上でエリア限定ワンセグを利用し、「雑誌や新聞などの入稿データのデジタル放送用配信パッケージへの自動変換」、「IP対応したワンセグ放送波での送信」、「各種ポータブル端末での表示」などの技術的な検証を実施した。

デジタル放送用配信パッケージへの自動変換

図1●デジタル配信用パッケージ自動変換
図1●デジタル配信用パッケージ自動変換
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 今回の実験では、提供される入稿データからXMLベースの中間フォーマットとメタデータを作成し、これらを使い各種デジタルコンテンツを自動生成した。この自動生成したデジタルコンテンツとメタデータは、1つの圧縮したコンテンツ・パッケージになっている(図1)。

(1)入稿データから中間フォーマットの生成
 新聞の入稿データは、新聞制作や新聞社・通信社間でのニュース記事などをネットワーク上で配信するためのフォーマットであるNewsMLを利用する。なお、新聞のデジタルデータは、元々XMLベースのドキュメントフォーマットであるため、中間フォーマットを生成せずに、NewsMLファイルから直接HTMLやRSSへ自動変換する。

 雑誌の入稿データは、Adobe社のDTP(Desktop publishing)ソフトのフォーマットであるAdobe Indesignと、PDF、JPEGなどのフォーマットを利用する。雑誌のデジタルデータは、一度XMLベースの中間フォーマットを生成する。この中間フォーマットには、InDesignのXMLベースのドキュメントフォーマットIDML(InDesign Markup Language)を利用する。

(2)自動変換に必要な情報を追加
 InDesignで制作された雑誌のデジタルデータは、テキストや画像などがバラバラに配置されており、写真とキャプションの組み合わせやテキストと写真の関係などHTMLのように構造化されていない場合が多い。そのため、Adobe Indesignで編集時に、記事のデータ属性(タイトル、小見出し、本文、キャプションなど)を構造化用タグ(body、img、divなど)を利用して設定してレイアウト化する必要がある。また、PDFやJEPGはInDesignに取り込み、PDFやJEPG内にある写真やタイトル、テキスト部分を各々枠で囲み、同様に記事のデータ属性を設定てレイアウト化する。これにより、InDesignのIDML書出しを行った時に、構造化された形でXMLベースのIDMLが自動生成される。

図2●AMIOフォーラムで提案されたAMIOメタデータ
図2●AMIOフォーラムで提案されたAMIOメタデータ
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 加えて、中間フォーマットを利用して、PDFとHTML、EPUBの3つのファイルへ自動変換するために必要な情報が記載されたAMIOメタデータを作成する。このAMIOメタデータは、AMIOフォーラムが提案するメタデータで、閲覧端末がコンテンツを表示する時に利用するコントロール情報が記載されているInternalメタデータ、コンテンツの種類やタイトル、サムネイル画像、説明、公開日などのコンテンツ情報が記載されているEPG情報のExternalメタデータ、そして、伝送タイプや伝送時間などの情報が記載れているDeliveryメタデータから成る(図2)。

 InDesignから中間フォーマットのIDMLへ書き出す時に、写真やテキストなどの配置座標値をInternalメタデータに自動で書き出す。この時の座標値は、ページ(見開き)全体に対する記事の座標値となる。また、オーバーレイ表示する場合の透明度、スライドショー表示する時間は、手動で追記する必要がある。なお、現在の電子書籍仕様であるEPUBには、日本語や韓国語などの2バイトコード文字特有の縦書きや文字修飾に対応していないため、これらの情報をInternalメタデータに記載する必要がある。External Metadataは、雑誌協会メタデータなどから、スクリプトにより自動生成する。足りない項目については手動で入力する。Delivery Metadataは手動で作成、または配信管理サーバで自動生成する。

(3)1つのコンテンツとしてパッケージ化
 生成された中間フォーマットのIDMLとメタデータを使いHTMLとEPUBを、NewsMLからHTMLとRSSを自動生成し、自動生成されたHTMLとEPUB、RSS、およびPDF、JPEGのデジタルデータとメタデータを1つのコンテンツ・パッケージとして圧縮ファイルを作成する。