インターネットイニシアティブ(IIJ)は2月、コンテナ型データセンターの実証実験を開始した。空冷でも水冷でもなく、外気だけを使ってサーバー機器を冷却し、極限まで消費電力量を下げる野心的な試みだ。実証が成功すれば、「データセンターはとにかく冷やすもの」という常識が変わる可能性がある。

 「データセンターに関する発想と常識を変える」。IIJでクラウド基盤技術を担当する久保力サービス事業統括本部データセンター事業統括部 部長は、こう力を込める。

 久保部長の言う「常識」は二つある。一つは建設手法だ。まず広大な土地を確保して、長い時間をかけてデータセンターを建設する。着工から完成までの期間は、ゆうに1年を超える。

 もう一つは、サーバー機器などを過剰に冷却してしまうことである。これまでは機器を正常に動作させるため、メーカーの保証する温度の条件よりも狭い範囲で動作するよう、データセンター内の温度を保ってきた。このための「温度と湿度の調節にかかる電力を過剰に消費していた」(久保部長)。

PUEで1.2以下を目指す

 IIJが発想を変えるための切り札と見込むのが「コンテナ型」のデータセンターだ。それも電気を使って冷風や冷却水を送り込む方式ではなく、外気をそのまま使ってサーバーを冷却する「外気冷却方式」を使う。

 IIJはこの外気冷却方式のコンテナ型データセンターを実用化するべく、この2月に実証実験を開始した。実際に1年間、外気を使ってコンテナ型データセンターを運用()。問題なく稼働するかどうか、想定通りの冷却効果を得られるかどうかを調べる。その後は同社のクラウドサービス「IIJ GIO」のインフラとして、実際に活用する計画だ。

表●IIJが実施する「外気冷却コンテナユニット」実証実験の概要
表●IIJが実施する「外気冷却コンテナユニット」実証実験の概要
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 実証実験の最大の狙いは、「PUE」の数値が1.2を下回る消費電力効率を達成することである。PUEとはPower Usage Efficiencyの略で、データセンター全体の消費電力量を、IT機器による消費電力量で割った値のことだ。理論上、「1」が最も効率が良い状態で、すべての電力をロスなくIT機器で使っていることになる。通常、データセンターの冷却設備や電源設備は、IT機器が使う以上の電力を消費している。

 PUE1.2以下という数値は、グーグルやマイクロソフトといった海外の大手クラウドコンピューティング事業者が達成している数値と同レベルだ。一方、日本の既存事業者は、大半が1.4を超えるとみられる。

 久保部長は、PUE1.2を下回るために、電力を必要としない外気冷却が不可欠と考えている。「従来のデータセンターはIT機器を過剰に冷却しており、電力消費のムダが多かった。実際には外気をうまく使えば、十分に実用的な冷却効果を得られることが、様々な事例から分かってきた」(別掲記事を参照)。

 さらに久保部長は、データセンターをコンテナ型にすれば、データセンターを迅速に建設したり処理能力を柔軟に拡張したりできると期待する。「ネットワーク上に分散したIT資源を仮想的に統合して、サービスや処理能力を柔軟に変化させるのがクラウドの基本。従来のデータセンターに加えて、コンテナ型データセンターを活用すれば、より細かい単位で素早く処理能力を増減できるようになる」。