決しておもねず、決して妥協せず--。誰にもおもねることのない一人のエンジニア。決して人嫌いではないが、テクノロジがもたらす価値を社会に還元するために、常に最善を尽くす。そんなエンジニアとしての生き方を貫く主人公「渡瀬浩市」と、その秘書「高杉伊都子」、渡瀬に認められた中学生「金田京太郎」。3人が出会った熱きエンジニアの思いが今、動き出す。

「本木本部長が沖田総司で、戸田部長が永倉新八かな? イメージにぴったりだね」

 私が心の中で思っていたことを京太郎は口走ってしまった。

「沖田総司と永倉新八って、新選組だね。金田君は新選組が好きらしいね」

 戸田部長は微笑みながら京太郎に言った。

「私のことを金田君は近藤勇だと言うんだよ」

「それ、納得ですね! 高木社長が近藤勇だとすると金海部長は土方歳三ですね。金海部長は自分にも部下にも厳しいから鬼の副長、土方歳三にぴったりだ! 確かに私は仕事は好きだけど体力がないから沖田総司かもしれない」

 本木本部長も新選組の話題に加わった。

「実は純国産にこだわるエンジニア集団である御社と、新選組のイメージを重ねていたんです。渡瀬さんは居合道真我流五段でいらっしゃるので」

 私は正直に話した。

「僕は本当に新選組だと思うよ。新選組が現代に生まれ変わったら、コンピュータエンジニアだったなんてね!」

「それは面白い。新選組に例えてもらえるなんて、ますます純国産のXjoinが誇りに思えますよ!」

 クールな金海部長も嬉しそうだった。

「ところで渡瀬になくて、俺が持っているものって何だ?」

 高木社長は渡瀬の目を見て言った。真剣な眼差しだった。

「実は長年、研究し開発してきたデータベースのエンジン、クレンは発売当時のXjoinと同じ境遇なんだ。今まで大手企業に何度もデモをみてもらってきたが、性能の良さは認められても導入実績を問われると何も言えなくなる。今さらながら、高木の営業力とケン・コンピュータのチームワークの良さには感心したというわけだ」

 渡瀬は神妙な面持ちをしていた。

「渡瀬の悩みもやはり営業か? 開発は最も重要だ。しかし、営業にも難しいものがある。売るということは開発と営業の二人三脚じゃないとだめだと思っているよ。
それに社員は家族だとも思っている。60人の家族を守るために、俺は北から南まで、重いパソコンを肩に掛けて、100冊以上のXjoinのパンフレットを大きな紙袋二つに入れて、両手に持って売り歩いてきたんだ。まるで行商だよ。かっこいいものじゃない」

 そう言って高木社長は笑った。

「本当に高木社長の営業には頭が下がります。弊社の営業が何人かかっても高木社長にはかないませんでした!」

 そこに声の大きな男性が、また一人入ってきた。

「岸辺第二開発部長です」

 金海部長が紹介した。