決しておもねず、決して妥協せず--。誰にもおもねることのない一人のエンジニア。決して人嫌いではないが、テクノロジがもたらす価値を社会に還元するために、常に最善を尽くす。そんなエンジニアとしての生き方を貫く主人公「渡瀬浩市」と、その秘書「高杉伊都子」、渡瀬に認められた中学生「金田京太郎」。3人は、純国産にこだわるエンジニア集団を訪れる。

 ケン・コンピュータの高木俊彦社長とは、幸運にも京太郎の都合が良い開校記念日にアポが取れた。

 渡瀬と京太郎と私の3人は東京中央区の日本橋にあるケン・コンピュータを訪問することにした。安産・子授けの祈祷で有名な水天宮がある新大橋通り沿いにあるビルの3階がケン・コンピュータである。

 このようなことで渡瀬が同行することは本当に稀なことである。だが、「高木社長とはもう随分、会っていないので私がケン・コンピュータにご案内しましょう」と、渡瀬自身もライバルである高木社長に会うことを楽しみにしているようだった。

 3階でエレベーターを降りると正面にインターフォンが置かれたデスクがあった。渡瀬がインターフォンの受話器を取り、高木社長とのアポを告げた。インターフォンの横にはガラスの花瓶に淡いピンク色のバラの花が数本生けてあった。派手過ぎない控え目な淡いピンクに好感が持てた。

 20代の女性社員が我々を左手奥の会議室に案内した。お茶を運んできた先程の20代の女性社員と入れ違いに、グレーのスーツを着た高木社長ともう一人ダークスーツに身を包んだ男性が入ってきた。身長180センチの高木社長よりやや低め、2人とも細身であるが、60歳の高木社長より年齢もひと回り若く見えるその男性の目は獣のように鋭かった。その目を見たとたん、私は金縛りにあったように身が堅くなった。

「渡瀬さんから、Xjoinについて話を聞きたいという記者をお連れしたいとお電話を頂戴しましたが、記者は高杉さんでしたか」

 高木社長の問いかけに、私の金縛りは解けた。

「高木社長、お久しぶりでございます。藤堂経営コンサルタント時代はお世話になりました。記者は私ではなく、こちらの金田京太郎君です。金田君は秀塾義塾学院中学2年生ですが、パソコン部の部長で『月刊パソコン部ニュース』を発行しています。純国産の開発ツールであるXjoinについて是非、記事にしたいと申しまして、ご友人の渡瀬様にご紹介をお願いした次第でございます」

「金田京太郎です。よろしくお願いいたします」

 やや緊張気味な私に比べて、京太郎は元気に挨拶した。

「秀塾義塾学院中学ですか! 私の息子は秀塾義塾高校から秀塾義塾大学の経済学部に進学しました。息子の母校の『パソコン部ニュース』にXjoinの記事を載せていただけるとは光栄です。喜んで説明させていただきます。
 それから、こちらは弊社の金海徹開発部長です。私より金海部長のほうが現場の苦労話などには詳しいですから、同席してもらいました。彼は仕事には決して妥協を許さない厳しい男です。IBLの森山誠治プロジェクトマネジャーからも強い信頼を得ている人物です」

「金海です。よろしくお願いします」

 金海部長は丁寧に会釈した。