ずばり、日本では2010年度が「IFRS対応元年」となる。最短で2015年3月期にIFRSの適用が義務づけられるとすると、2013年4月にはIFRS準拠の貸借対照表を作る必要がある。そのための経営改革とシステム対応を考えると、もう動き出さなければ出遅れかねない。2013年4月までの「3年」をどう過ごすか――。膨大な投資をともなう可能性もあり、経営層とシステム部門は難しい決断を繰り返し迫られる。

 日本でのIFRSの適用は早ければ2015年3月期に始まる。その場合は2013年4月の時点で、IFRSに基づく貸借対照表を作成する必要がある。上場企業約3800社を中心とする数万社以上の企業は実質3年で、IFRSへの対応に向けた準備を進めなければならない。2010年度が事実上、IFRS対応元年となる。

 ネスレの事例で分かるように、IFRSが志向する「ガラス張りの経営」を実現するに当たり、情報システムが果たす役割は大きい。ネスレの姿はIFRSを適用した経営の理想形だ。3月期決算企業がIFRS対応元年を迎える今、システム部門は経営層が下す意思決定に合わせて、様々な決断を迫られる。

 目先の課題は、「どの基幹システムを対象とすべきか」「システムをどの程度、改変する必要があるか。全面刷新が必要か、既存の業務システムを修整すれば済むか」などを決めていくことだ。

 先例が少ない中、システム部門の担当者にとってIFRSへの対応は、先が見えにくく悩ましい問題である。だからといって、受け身の姿勢を採るのは禁物だ。残り3年を生かせるかは、システム部門が下す決断にかかっている(図1)。

図1●IFRSは情報システムのあり方に影響を与える
図1●IFRSは情報システムのあり方に影響を与える
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ガバナンス強化か制度対応か

 IFRS対応プロジェクトは、(1)IFRSと日本の会計基準の違いが企業にどのような影響を与えるかを分析する、(2)分析結果をもとにプロジェクトの全体方針を立案する、(3)IFRSに合わせた会計規則を作成し、システムを修整・構築する、という流れで進むのが一般的である。(1)と(2)を2011年3月までに終了できれば理想的だ。

 経営層にとってもシステム部門にとっても、カギとなるのは(2)だ。IFRS対応をきっかけにグループガバナンスの強化に乗り出すのか、それとも制度対応ととらえて投資を抑えるのか。経営層はグループ全体のIFRS対応の方針を決めなければならない。

 グループ全体のIFRS対応の方針に大きな影響を与えるのがシステム部門の決断だ。IFRS対応の期間中にグループ統一システムを構築するのか、システム投資の負担を抑える方を優先するか。これを決定し、経営陣に提言できるのはグループ全体のシステムの状況を理解しているシステム部門しかいない。「全社でIFRS対応プロジェクトを旗揚げしたら、必ずシステム部門は参加すべきだ。それも早い方がよい」とプライスウォーターハウスクーパース(PwC)の鹿島章パートナー/公認会計士は強調する(図2)。

図2●IFRS対応プロジェクトでシステム部門が考慮すべきポイント
図2●IFRS対応プロジェクトでシステム部門が考慮すべきポイント

 システム部門は基幹システムの整備状況やITガバナンスの状態など、海外子会社を含めたグループ各社の状況を押さえておき、経営陣が的確に判断を下せる材料を提供する役割を担う。それには「長期的な視点で、グループ全体の基幹システムにかかわるIT戦略を決めておくべき」とデロイトトーマツコンサルティングIFRSサービスチームの中村明子シニアマネジャーは指摘する。

 加えて、「システム部門は業務システムに対する影響を把握して、既存システムの修整計画を早めに立案することが大切」とIBMビジネスコンサルティングサービス(IBCS)戦略コンサルティング経理財務変革コンサルティングの松尾美枝執行役員は話す。