日本でもいよいよ2010年度に、多くの企業が本格的にIFRS(国際会計基準)対応に着手する。これを機に競争力の強化を目指すのか、制度対応を優先するのかで、目指すシステムの姿は異なる。システム部門の決断がIFRS対応全体に大きな影響を与え、対応後の企業経営を左右する。まずは、「IFRSを生かした経営」の実現で先行する世界最大級の食品メーカー、ネスレの約20年間の葛藤と決断、飛躍の歴史を追う。

 グループ全体売上高は9兆2800億円(2009年12月期)、社員数は28万人。世界100カ国以上に拠点を持つ─。これだけの規模で、精密に月次で経営状況を把握している企業がある。スイスに本社を置くネスレだ(写真1)。コーヒーのネスカフェをはじめ、チョコレートのキットカットや、麦芽飲料のミロなど強いブランド力を持つ超大企業である。

写真1●食品・飲料メーカーとして世界最大級の売上高を誇るネスレ(スイス)の商品は、日本でもお馴染みのものが多い
写真1●食品・飲料メーカーとして世界最大級の売上高を誇るネスレ(スイス)の商品は、日本でもお馴染みのものが多い

グローバル統一システムを構築

 ネスレが月次で把握しているのは、商品別、事業別、地域別の売上高や利益、費用のほか、予算と実績の差異分析や最終的な損益予想に関する世界の状況である。同一の数値に基づいて財務諸表と社内管理を実施しており、社内管理の数値をそのまま社外に公表できる。月次決算や予測の基礎となるデータは、ほぼリアルタイムで収集する。グローバル経営の“理想”ともいえる。

 「グループ全体でIFRS(国際会計基準)という一つの物差しを基準にしている。その上でグローバルに統一した情報システムを整備した。これが決定的に経営を変えた」。ネスレ日本 財務管理本部の細見安男会計部長はそう強調する。

 ネスレのグローバル統一システムの名称は「GLOBE(グローバル・ビジネス・エクセレンス)」。会計や販売、SCM(サプライチェーンマネジメント)、人事といった業務アプリケーションに加え、勘定科目や顧客、製品のマスターデータを世界で統一している。

 ネスレはGLOBEの導入を決断する12年前に、グループの会計基準としてIFRSを採用した。1989年のことだ。ネスレがGLOBEの構築プロジェクトに着手したのは2001年。その後、業務プロセスの標準化やシステムの開発を経て、ネスレ日本がGLOBEを導入したのは2007年のことだ。

 IFRSをより生かした経営に転換するには、どうすればよいか。IFRSの適用から12年後に出した答えがGLOBEの構築だった。