決しておもねず、決して妥協せず--。誰にもおもねることのない一人のエンジニア。決して人嫌いではないが、テクノロジがもたらす価値を社会に還元するために、常に最善を尽くす。そんなエンジニアとしての生き方を貫く主人公「渡瀬浩市」と、その秘書「高杉伊都子」、渡瀬が心を開く中学生「金田京太郎」。京太郎による渡瀬への取材によって、渡瀬のエンジニアとしての姿勢が明らかにされていく。

「藤堂社長が『渡瀬所長はシステムのトラブル解決のプロでもある』とおっしゃっていました。システムのトラブル解決となるといつも、『渡瀬所長を呼べ!』と言われたほど、数々のトラブルを解決してこられたとうかがいました。どのようなトラブルを次々に解決なさったのか、教えていただけますか?」

 私もいつの間にか、京太郎に負けないくらい取材にのめり込んでいた。

「それは興味ある質問だね! 僕のパパ、銀行の支店長だけど大手の銀行同士が合併してからは、しょっちゅうトラブルがあるって言ってた。銀行って不良債権を抱えていたし、僕はお父さんのような銀行員だけにはなりたくないと思ってるんだ。ママだって、トラブル続きで毎日深夜に帰宅するパパを見ているから、コンピュータには理解がないんだよ」

 両親の様子をよく観察している、ませた口調の京太郎に渡瀬の表情は終止、和んでいた。

「トラブルには2種類あります」

 静かにそう言うと渡瀬はソファーから立ち上がり、マーカーを手に取ると再び、ホワイトボードに書き始めた。

(1)システムが動かなくなるトラブル
→ その原因を追及してトラブルの原因を取り除く

「私は松平技研にいた20代の頃、工場やプラントで24時間無人稼働している操業管理システムのSEでもありました。IBL9000という、プロセスコンピュータの略でプロコンと呼ばれたコンピュータを使っていました。プロコンは外部からの信号、これを割り込みといいますが、その信号によってプログラムが動く仕組みのコンピュータです。色々な割り込みがランダムにやってきて処理が始まります。金田君が知っている割り込みもありますよ。何だと思いますか?」

「う~ん 難しいな」

 京太郎は首を傾げながら言った。

「タイマーによって電気のスイッチを入れるのも割り込みの一種です。そんな割り込み信号がランダムにやってきて処理が行われます。そのとき、あるプログラムが動くとそこでエラーになったとしましょう。ということは、トラブルの犯人は、実はそのプログラムではありません。元々、そのプログラムが動作するための領域を壊しにきた、別のプログラムが犯人なんです」

  ダンプアウト

「トラブル解決では、主記憶の内容を16進数で印刷したもの、これをダンプアウトといいますが、そのダンプアウトを解析していくわけです」

「犯人探しにはダンプアウトが大切なんだね。何だか推理小説みたいで楽しそうだね」