携帯電話のいわゆる「SIMロック」問題が再燃している。総務省の内藤正光副大臣が3月に「携帯のSIMロックの是非について検討する」と明言(関連記事)し,4月2日の18時に総務省で,関係する事業者や消費者団体を招いてSIMロックの在り方に関する公開ヒアリングを開催するからだ(関連記事)。

 SIMロック問題は,これまでも数多くの議論がされてきた。しかしSIMロックに関係した複雑に絡み合った事情も影響し,いまだに誤解が多い問題とも言える。そこでSIMロックの問題についてこれまでの経緯を振り返り,何が問題視されているのか,また今後の議論の注目点を洗い出してみたい。

■参考記事:「携帯のSIMロックの是非について検討する」と内藤副大臣,ICTタスクフォースから
■参考記事:総務省,携帯電話のSIMロックに関するヒアリングを開催

SIMロックは販売奨励金の未回収を防ぐため

 そもそもSIMロックとは何か。第3世代携帯電話(3G)の多くは,契約者固有の情報を記録した「SIMカード」と呼ぶ切手大のICカードを端末のバッテリーの裏などに差し込んで利用している。 技術的には,SIMカードを差し替えれば同じ端末を異なる携帯電話事業者で利用可能な仕組みを持つ。 しかし携帯電話事業者によっては端末に制限を加えてこうした利用法を禁止し,自社ブランドの端末を他事業者で利用できないようにしている。これが「SIMロック」だ。

 日本のほとんどの3G端末はSIMロックがかけられている。NTTドコモとソフトバンクモバイルは同一事業者内であれば他のSIMを利用できる「事業者ロック」を,KDDIはより厳しい最初に挿入したSIM以外は利用できない「ユーザーロック」をかけている。

 日本でSIMロックが一般的になった理由は,事業者がいわゆる「販売奨励金」の未回収を防ぐ目的が大きかったと言える。日本では携帯端末の価格を値引きするために販売奨励金が広く活用されてきた。ここでもし端末にSIMロックがかかっていなければ,値引きされた端末を短期間で解約して,他社に乗り換えるユーザーが出てくる可能性が出てくる。そうなれば,販売奨励金が未回収になる恐れがある。

 また日本では携帯電話事業者が端末の設計に深く関与し,事業者間の競争が端末の機能やサービスと密接に結びついてきたという事情もある。そもそも他事業者とのSIM入れ替えを可能にしたところで,メールや各種アプリケーションの互換性が事業者間で無く,基本的な電話以外は利用できない。その電話機能も,3Gで同じW-CDMA方式を採用するNTTドコモとソフトバンクモバイルは互換性があるが,KDDIはCDMA2000方式を採用するため互換性がない。

 なおよく誤解されることだが,SIMロックは日本固有の仕組みではない。実は欧米などでもSIMロック・フリー端末に加えて,SIMロック端末は広く流通している。ただしフランスやドイツなどは契約から6カ月や24カ月を経過した端末については,SIMロックの解除が可能になるような取り組みもされている。

■参考記事:SIMカードとは
■参考記事:日本だけ特殊?海外の携帯ビジネスモデルの実態

2007年のモバイルビジネス研究会でSIMロックを徹底議論

 SIMロックは携帯事業者の事情によって導入されたものだが,一方でユーザーにとってみれば端末の自由な選択を阻害しているという側面がある。端末と携帯電話事業者がひも付いてしまっているからだ。またSIMロックに見られる携帯電話事業者と端末メーカーの密接な関係が,国内メーカーの国際競争力の低下に影響しているとの指摘もある。このような問題意識の下,総務省で2007年に開催された「モバイルビジネス研究会」では,SIMロックの在り方についても多くの議論が費やされた(関連記事1関連記事2)。

 モバイルビジネス研究では,上記のような問題意識からSIMロックの原則解除を求める研究会側と,「ビジネスモデルは事業者の自主性にまかせるべき」という携帯各社との間で意見が対立した(関連記事)。事業者側は,SIMロックを解除したところで大部分の機能が引き継げないのでユーザー・メリットが薄いこと,奨励金を使いにくくなるため端末価格の高騰を招くことといったデメリットを強調した。しかし研究会は,「これらの理由が今後ともSIMロックを継続することが望ましいとする根拠にはならない。これは,現行のビジネスモデルが端末機能と通信サービスをバンドル化した一体型モデルのみ存在していることを前提とした議論」と一蹴。SIMロック解除によって端末の自由度が広がり,携帯電話事業者以外の新たなプレーヤの参入によるユーザー・メリットも高くなるという考え方を示したのだ。

 とはいえ最終的には「SIMロックについては原則解除することが望ましいが,当面,その動向を注視し,今後のBWAの進展や端末市場の動向を見て,2010年の時点で3.9Gや4Gを中心としてSIMロック解除を法制的に担保することについて最終的な結論を得ることが適当である」という形で決着が着いた(関連記事)。つまり2010年にSIMロックの議論を開始することは,2007年当時から想定されていたわけだ。

■参考記事:モバイルビジネス研究会
携帯電話の販売奨励金とSIMロックは不要か,総務省が研究会を開催
総務省がモバイルビジネス活性化プラン,携帯・PHS各社に料金内訳の明確化を要請
■参考記事:携帯電話の「SIMロック」解除に効果はあるのか?
■参考記事:SIMロックや販売奨励金の廃止は日本の端末メーカーにトドメを刺す?
■参考記事:モバイルビジネス研究会で携帯電話業界はどこまで変わるのか?