エノテック・コンサルティングCEO
海部 美知 エノテック・コンサルティングCEO
海部 美知

 2010年1月12日,ハイチをマグニチュード7.0の大地震が襲った。米州最貧国である同国で,被災後に通信が果たした役割は大きい。

携帯と衛星が被災地の生命線

 ハイチでは,固定電話の人口普及率がわずか2%以下であるのに対し,携帯電話は40%以上で,国民の基本的な通信インフラとなっている。地震後の復旧作業や被災者援助活動でも,もっぱら携帯事業者の活躍が目立つ。

 同国の携帯電話最大手ディジセルは,地震発生から5日後,基地局の稼働率が70%まで回復したと発表。可搬型小型基地局が活躍しているが,基地局の自家発電燃料の盗難を防ぐために,基地局には厳重な警備体制が敷かれている。

 一方,停電でユーザーも端末を充電できない。使える状態の電源には順番を待つ人の長い列ができた。そんな中,オランダの携帯電話メーカーであるインティベーションが太陽電池付きの携帯電話機を1000台寄付して,話題を集めた。

 今回の地震には間に合わなかったが,携帯電話基地局の製造を手掛けるインドのベンチャーVNLは新興国向けに安価な太陽発電基地局をパイロット運用している。インフラ設備でも太陽電池が活用する日は近そうだ。

 このほか,初期段階で威力を発揮するのが衛星電話である。英インマルサットなどが後援する非営利団体「国境なきテレコム」(TSF)では,自然災害・戦争時に救援隊や被災者向けに衛星電話サービスを提供する活動を行っている。こうした現場に慣れた同団体職員でも,「ハイチの状況は想像を絶する」と述べている。

 インターネット接続を支える国際回線では,バハマと共同運営する国際海底ケーブルが切れる被害があった。ただ,もともとこのケーブルへの依存度は低く,大半は衛星回線であったために,地震直後でもネット接続はかなり生きていたと報道されている。

テクノロジーで世界を救う

 ハイチと政治的・人的つながりの大きい米国では,種々の支援活動が展開された。今回注目を集めたのは,手軽な「テキスト寄付」である。携帯電話のSMS(short message service)で短縮番号にテキスト・メッセージを送ると,一定額が電話の利用料の一部として課金され,その分が事業者から寄付される仕組みである。2月半ば現在,米国赤十字だけで3200万ドルを集め,2005年ハリケーン・カトリーナ時の40万ドルと比べ80倍にもなった。

 また,各地でボランティアがネット上で被災状況のデータベース作成や,現地語ネット翻訳などの活動を自主的に行ったことも,新しい試みとして注目される。

 もともと通信インフラのぜい弱なハイチでは,緊急対応が終わった後に,息の長い整備活動が必要である。通信とテクノロジーを使って,世界の人々の生活を向上させるという関係者の意気込みがますます大切になるだろう。

海部美知(かいふ・みち)
エノテック・コンサルティングCEO
 NTTと米国の携帯電話ベンチャNextWaveを経て,1998年から通信・IT分野の経営コンサルティングを行っている。シリコン・バレー在住。
 今号が連載の最終回となります。これまで長い間,連載をご愛読いただきありがとうございました。これからもブログなどで,変化していく世界の情報を発信し続けていきますので,よろしくお願いいたします。