ボットネット「Wiseguys」、人気スポーツ／音楽イベントのチケット争奪戦で圧勝

　スパム送信者（スパマー）はCAPTCHA（completely automated public turing test to tell computers and humans apart）認証を回避できる、という内容の報道をよく目にする。こうしたテクニックを持つスパマーはボットネットに取り込んだパソコンを使い、大量のスパム・メールをランダムなアドレスに送りつける（関連記事：スパマーの戦略，CAPTCHA解読を足がかりとするメールの大量配信/CAPTCHA認証破りの手口）。

　ニュージャージー州ニューアークにある米連邦裁判所の判事は2010年第1週、ボットネット形式のCAPTCHA解読機能付きネットワークが最近使われた事例を明らかにした。この件の被告たちは人気の高いスポーツ/音楽イベントのチケットを販売業者のWebサイトから購入するために、ボットネットに取り込んだパソコンを使っていたそうだ。購入したチケットはインターネット上で高値で転売したという。

　起訴状（PDF形式）によると、ブルガリアにいる共犯のプログラマがボットネットを動かす分散ソフトウエアを開発した。このソフトは、購入者を制限するためのセキュリティ対策をくぐり抜け、一番人気のチケットを手に入れていた。よく見かけるボットネットと異なり、このボットネットは取り込んだパソコンをチケット獲得だけに使った。そして2002年終わりから2009年1月ころにかけて開催された人気イベントのチケット150万枚以上の購入に成功し、2890万ドルの利益を得たと見られる。

　このダフ屋行為にかかわった企業の従業員や取引業者、そして被告人たちは、彼らがネバダ州で設立した「Wiseguy Tickets」（ワイズガイ・チケッツ）という会社にちなんで，「Wiseguy」と呼ばれている。Wiseguyのボットネットは全米からパソコンを集めており、数分で数千枚のチケットを買うことができた。ボットネットのパソコンは以下に示す作業を行っていた。

・オンライン・チケット販売業者のWebサイトを監視し、人気イベントのチケットについて正確な発売日時を調べる

・チケット発売の瞬間に数千本のコネクションを確立する

・CAPTCHA認証を数分の1秒でクリアし（人間が入力すると5～10秒かかる）、あっという間に正規の購入手続きへ進む

・Wiseguysの従業員は、人気チケットが数百枚も載っているリストを並行して作る

・ボットネットのパソコンは、クレジットカード番号やメール・アドレス（ただし偽物）といった購入手続き必要な情報を漏れなく入力する

　起訴状を読むと、Wiseguysがいかに多くの人気イベントを食い物にしたかよく分かる。例えば、全米大学フットボールの王座を決めるBCSナショナル・チャンピオンシップ・ゲーム、イリノイ州シカゴで行われたバーバラ・ストライサンドのコンサート、ニュージャージー州で開かれたハンナ・モンタナのコンサート、ブルース・スプリングスティーンの2008年ツアーが標的になった。Wiseguysのボットネットは、このツアーだけでチケット約1万1800枚を購入した。

　起訴状には「Wiseguysが最後に悪事を働いたのは2009年1月」とある。このときWiseguysのボットネットは、全米フットボール・リーグ（NFL）決勝戦（ニューヨーク・ジャイアンツとフィラデルフィア・イーグルスが、ニュージャージー州イースト・ラザフォードのジャイアンツ・スタジアムで戦った）のチケットを求める1000人のふりをしたという。

　Wiseguysは、マルウエアをあまり拡散させずに狙いを絞り込む攻撃の見本といえる例だ（Wiseguysの攻撃目標はオンライン・チケット販売業者だった）。今回の事例から、IT管理者は任されているネットワークの監視を怠らず、どんなに小さな以上でも見逃さないよう心がけることが大切、という教訓が得られる。

　この事件を報じた米CBSのニュース映像はYouTubeで確認できる。

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◆この記事は，マカフィーの許可を得て，米国のセキュリティ・ラボであるMcAfee Avert Labsの研究員が執筆するブログMcAfee Avert Labs Blogの記事を抜粋して日本語化したものです。オリジナルの記事は，「Wiseguys Botnet First in Line for Concert, Sports Tickets」でお読みいただけます。