情報システムの“ユーザー企業”にとって、情報システムをどう活用すれば競争力を強化できるのか。ITベンダーやシステム・インテグレーターなどの営業トークや提案内容を見極めるうえで何に留意するべきか。ITベンダーなどに何かを求める以前に、“ユーザー企業”が最低限考えなればいけないことは何か――。

 野村総合研究所で約20年間勤務した後に、人材派遣大手スタッフサービスのCIO(最高情報責任者)を務めて急成長を支え、『ダメな“システム屋”にだまされるな!』(日経情報ストラテジー編)の著者でもある佐藤治夫氏が、情報システムの“ユーザー企業”の経営者・担当者の視点から、効果的な情報化のための発想法を解説する。

 前々回(第18回)から前回(第19回)にかけて、成長企業が“ユーザー企業”として情報システムを活用する際のポイント3つのうち、第2のポイント「費用対効果ならぬ時間対効果」について書きました。今回は、第3のポイント「ワーストシナリオ回避よりもベストシナリオ追求の姿勢」について述べます。

 何か新しいことに着手する時に、あらかじめベストシナリオとワーストシナリオの両方を同時に描いておくことは、ビジネスにおける基本動作の1つです。

 最悪の場合に何が起こるかを事前に推測し、そうならないような施策を打つ、あるいは万が一そうなった場合でも被害・悪影響を最小限に食い止める手段を講じておく。これがワーストシナリオ回避であり、マネジメントの基本でもあります。一方で、最善の場合、どうなる可能性があるかを予見しておき、機会が到来すれば即座に1つ上の目標に移行できるような心構えをしておく。これがベストシナリオ追求です。

 ワーストなら何が起こりうるかをあらゆる観点から吟味する力は、マネジメント能力と言えるかもしれません。一方、ベストならどれだけ大きな絵を描けるか、どれだけ高い志を持てるかはリーダーシップに関係しています。

成熟企業の「マイナス思考」は必然

 現実は必ずベストとワーストの中間のどこかに着地します。しかし同時に、ある観点ではワーストに近く、別の観点ではベストに近いという、まだら模様で着地するものです。悪影響を最小限に食い止めながら、同時に機会を最大限に生かすマネジメントとリーダーシップには、組織としての“賢さ”が如実に表れます。

 成熟企業・成熟事業では、ワーストシナリオ回避を優先するべきです。例えば、年商100億円の成熟企業にとって、販売拡大による1億円の増収はうれしいことではありますが、大したことではありません。一方で、何らか不祥事や事故、トラブルが発生して売上高が1億円減ることには大きなマイナスの影響があります。1億円の増収で「可能性が広がった」と考えるプラスと、1億円の減収で「もっと下がるかもしれない」と考えるマイナスを比較してみてください。

 失うものが大きい成熟企業では、社員の間で「マイナス思考」が広がることはむしろ自然なことです。ワーストシナリオ回避の施策を講じておくことが、社内で安心感を生み、事業の安定につながるのです。

 一方で、成長企業ではこれとは異なる考え方が必要です。