これまで自社運用ばかりだったERP(統合基幹業務システム)でも、SaaSが登場してきている。ERPの導入は自社の業務をシステムに落とし込む作業であり、オンプレミスでもSaaSでも何らかの開発や設定は不可避となる。ただし、同じERPでもオンプレミス型とSaaS型ではその作業内容は大きく異なる。

 SaaS型ERPでカスタマイズ可能なのは、いわゆるパラメータ設定と見た目の変更まで。アドオン開発に当たるカスタマイズはできない。アプリケーションのビジネスロジックを複数のユーザーで共用するからだ。自社用にカスタマイズするのではなく、SaaS型ERPが持つ標準機能に自社の業務を合わせていく形になる。柔軟性に欠ける半面、カスタマイズの工数は減るので初期費用としてかかるSI費は安くなる。

 さらに「プロジェクトの工程が従来のERP導入と全く異なる」(富士通ビジネスシステム(FJB)のマーケティング本部ビジネスイノベーション推進部の石見誠一プロフェッショナル部長)。同社はネットスイートのSaaS型ERP「NetSuite」を取り扱っており、「2週間で導入を完了したこともある」(石見部長)と言う。

図1●通常のプロジェクトとの工数の違いのイメージ
図1●通常のプロジェクトとの工数の違いのイメージ
富士通ビジネスシステムの資料を基に作成
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 従来のERP導入プロジェクトは、要件定義、基本設計、開発、結合テスト、システムテスト、運用テストを経てシステムが稼働する(図1)。ウォーターフォール型でそれぞれ順番に作業するので、机上での要件定義、設計が終わるまでは開発には取りかかれない。そのため、全体の開発期間が長期化し、コストがかさむことも多かった。

 一方、SaaSでは「実環境で動作するプロトタイプ」が、導入プロジェクトのスタート時には既に存在する。ユーザー企業の担当者は、実物のアプリケーションを要件定義の段階から見て触れる。これをカスタマイズしながら徐々に完成型に近づけていくという、アジャイル開発のようなスタイルでシステム導入を進めることができる。FJBは、アドオン開発しない形でパッケージソフトを導入した場合に比べ、導入期間を3分の2から半分に短縮できたとする。

 SaaS型ERPの導入ケースとしては、数千人、数万人の社員を抱える大企業による全社導入は考えにくい。アドオン開発できないことが、特に販売管理や生産管理でネックになるからだ。

 典型的な導入形態は大きく二つ。一つはスタンドアローンの財務会計ソフト、販売管理ソフトを利用していた中堅・中小企業が、管理会計やBI(ビジネスインテリジェンス)の導入を目的に乗り換えるパターンだ。中堅・中小企業では元々のデータ量が少ないため、データ移行は会計データなどを手作業で移せば済む。ITサービス企業にデータ移行をすべて任せた場合でも費用は100万~300万円程度だ。

 二つめは大企業の一部門が導入するパターンだ。短期間で導入できるSaaS型ERPを活用して、海外拠点や新規事業部門の営業実態を早期に把握できるようにする。このパターンではデータ移行よりも、本社にある別の基幹系システムとのデータ連携の方が問題になる。ネットスイートの内野彰マーケティング本部部長は「そうした企業には、米パーベイシブソフトウエアの『Pervasive Data Integrator 』をはじめとしたETL(抽出・加工・書き出し)ツールの導入を推奨している」という。

 ただ、このETLツールは高額だ。ソフトのライセンス費だけで数百万円台の後半。ハードウエアやSI費を含めると導入費用は千数百万円から数千万円になる。

表1●SaaS型ERPの料金
この記事は「日経コンピュータ」2010年2月27日号を転載したものです。表にある情報は雑誌掲載時点のものです。
表1●SaaS型ERPの料金
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