アジャイル開発関連イベントを報告する。東京ではマイクロソフトが初めてアジャイル開発のイベントを主催した。大阪では西日本で最大級のイベントが開かれ、登場から10年の節目にふさわしく「振り返り」が行われた。アジャイル開発は人に焦点を当てた手法なだけに信頼関係が実践上のボトルネックになってきたという。

 2010年1月22日にはマイクロソフト日本法人が初めてアジャイル開発関連イベントを主催。2月6日には関西に活動拠点を置くアジャイル開発のコミュニティー「日本XPユーザグループ関西」が、西日本で最大規模となるイベント「XP祭り関西2010」を開催した()。XPとはアジャイル開発手法の一つ「エクストリームプログラミング」である。

表●2010年1月と2月に催されたアジャイル開発に関連したイベントの詳細
表●2010年1月と2月に催されたアジャイル開発に関連したイベントの詳細
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 参加者はマイクロソフトで約50人、日本XPユーザグループ関西で約140人。講演を聴くだけではなく、時には体を動かし、時にはTwitterでつぶやきながらアジャイル開発の知見を広めた。

「繰り返し=アジャイル」ではない

写真1●永和システムマネジメント サービスプロバイディング事業部の木下史彦アジャイルコンサルタント兼マネージャ
写真1●永和システムマネジメント サービスプロバイディング事業部の木下史彦アジャイルコンサルタント兼マネージャ
ャXP祭り関西2010で「アジャイル アンチパターン ~私がアジャイルの1周目で学んだこととXPの次の10年~」と題して講演した

 「2009年末からアジャイル開発を指定して仕事の依頼が来るようになった」。永和システムマネジメント サービスプロバイディング事業部の木下史彦アジャイルコンサルタント兼マネージャは講演をこう切り出した(写真1)。木下マネージャはXP祭り関西2010で「アジャイルアンチパターン ~私がアジャイルの1周目で学んだこととXPの次の10年~」と題して講演した。

 木下マネージャには現在、東証一部上場の大企業からアジャイル開発の導入コンサルティングの依頼が来ているという。こうした盛り上がりを踏まえ、「アジャイル開発は過去10年はイノベーター(革新的採用者)だけが使う1周目だったが、今はアーリーアダプター(初期採用者)が使う2周目に入った」と分析する。

 広がりを実感しつつも木下マネージャは普及による弊害も心配する。アジャイル開発が日本より普及する米国では、アジャイル開発手法の一つである「スクラム」の採用が主流になっている。スクラムは繰り返しの枠組みだけを決め、実装やテストの手法を規定しないシンプルであることが特徴だ。

 しかしそれが裏目に出ているという。「テストファーストやリファクタリングといった継続的にソフトウエアを改善するための開発技術や、顧客と開発者が一緒に作業する場の設置が重要視されなくなり、さらに顧客の声を聞かずに開発者の自己満足で進むプロジェクトが増えた」という。

 木下マネージャは、『アート・オブ・アジャイル デベロップメント』を著したジェームズ・ショアのブログエントリーである「アジャイルの衰退と凋落」を引用してこう説明した。これを踏まえてこれからの日本でのアジャイル開発の利用に際しても「短いサイクルで開発を繰り返すだけでアジャイル開発と呼ぶのは間違い」と釘を刺した。

 続いて木下マネージャは最近感じている課題に言及した。アジャイル開発を導入・適用するうえでの問題や、アジャイル開発ならではの技術やスキルの問題から、「信頼関係といった人と人との問題に移ってきた」というのだ。