2010年3月に民主党政権下で、新たな情報通信技術戦略の骨子が打ち出されました。新聞などで概要は報道されていますが、医療や教育、行政分野で目指すべき姿は、10年前の2001年2月に森内閣が定めた「e-Japan戦略」で打ち出された将来像とあまり違いはない印象を受けました。

e-Japan戦略が目指した社会は実現したか?

 e-Japan戦略で描かれた今後目指すべき社会の姿は、教育では、「地理的、身体的、経済的制約等に関(かか)わらず、誰もが、必要とする最高水準の教育を受けることができる」としていました。今の姿は、前進していないどころか、例えば首都圏の小学校では、満足にパソコンが配備されていないところもあり、またPCの操作方法ではなくITを使った授業方法を習得している先生も、IT教育用のコンテンツも十分ではありません。

 医療・介護では、「在宅患者の緊急時対応を含め、ネットワークを通じて、安全に情報交換ができ、遠隔地であっても質の高い医療・介護サービスを受けることができる」としていました。残念ながら、まったく達成されていないどころか、地域医療の崩壊は深刻な問題となっています。医療分野では使いにくく高価な電子カルテシステムが、かえって医師の負担になっています。

 行政では「自宅や職場にいながら、政府に関する情報が即座に手に入り、ワンストップサービスで住所・戸籍、税の申告・納付などの行政サービスを受けることができる」としていました。確かに政府の情報公開は進みましたが、市役所の窓口がワンストップ化していないところは数多くあります。電子申請は対象業務が大幅に拡充されましたが、利用率が低調であることはご存じの通りです。

 10年前から比べると前進したものもあります。1994年の戸籍法の改正により可能となった戸籍の電算化は、15年経過して、ようやく大部分の市町村で整備が終わろうとしています。1999年からスタートしている住民基本台帳ネットワークの整備は終わり、住基番号が全国民に割り当てられ、電子入札を実施する自治体も増え、どこの自治体もホームページは持っているし、仕事にもメールを活用しています。

 しかし、自治体の職員も住民も、ITのおかげでこの10年で何かが非常に便利になったとか、コストを何十%も下げることができたかというと、その実感はないでしょう。それはなぜでしょうか。残念ながら原因の分析すらされていません。