ユニバーサルデザイン(UD)という言葉を知らない方は、なぜ本書をITproで紹介するのか、と思うかもしれない。また、この言葉を聞いたことがある方の中には、「障碍者や高齢者向けのデザインという特殊なテーマの本をなぜ大きく取り上げるのか」と首をひねる人もおられよう。

 本欄で紹介する理由は、著者が本書の巻頭で、自分の仕事の意味を考えているすべての人に読んでもらいたい、と記したからである。つまりITpro読者の方々のうち、自分の仕事の意味を考えておられる人はすべて、本書が想定する読者と言える。

 ユニバーサルデザインを著者は次のように定義している。「年齢、性別、能力、環境にかかわらず、できるだけ多くの人々が使えるよう、最初から考慮して、まち、もの、情報、サービスなどをデザインするプロセスとその成果」。

 情報(を提供するシステム)のデザイン(設計)のことであるから、情報システムの企画、設計、開発、運用にかかわる万人に関係するテーマであり、一連の仕事を改善する際に、ユニバーサルデザインの考え方を生かせる。「できるだけ多くの人々が使えるよう」にするために、障碍者や高齢者への配慮は欠かせないが、といって障碍者や高齢者専用というわけではない。

 ユニバーサルデザインを提唱した米ノースカロライナ州立大学がまとめた「七原則」を見ると、「誰にでも公平に利用できる」「使い方が簡単ですぐわかる」「必要な情報がすぐに理解できる」「うっかりミスや危険につながらない」などとなっており、情報システムの仕事にそのまま適用できることがわかる。

 二部構成の本書において、一部で様々な実用例が、二部で七原則やユニバーサルデザインを支える多様性(ダイバーシティ)の考え方、関連する法律と標準化動向などが、それぞれ紹介される。一部の事例紹介は、「新入社員柚衣さんの冒険」という表題通り、物語仕立てである。正直言って評者はこうしたお話が苦手なのだが、本書の場合、お話部分は短くまとめられ、一つひとつの話の直後に分かりやすい解説が付けられており、考えながら読めるように工夫されている。

 読者に向けたメッセージとして著者は、仕事や家庭で出会う問題を見いだし、ユニバーサルデザインによる解決策を考えてほしいと述べ、三点セットのメモを勧めている。何かに不便を感じたときに、不便な点、改善点、そうは言ってもよくできている点、を記録するというものだ。

ユニバーサルデザインのちから

ユニバーサルデザインのちから
関根 千佳著
生産性出版発行
1575円(税込)





■変更履歴
内容を一部追加しました。 [2009/03/25 11:40]