サービス・イノベーションでは、サービスがなされる地域の特色や、個々のサービス現場での特性を、注意深く分析・活用することが重要だ。そして、グローバルに展開していく仕組みなど、共通のビジョンやソリューションを共有していくことも必要となる。いわば、 “Think Globally, Act Locally”を念頭に行動を進めていくことだ。今回は、関西のサービス・イノベーションの一押し事例として、大阪ガスグループの行動観察調査に焦点を当てよう。

関西サービス・イノベーション創造会議

 大阪は、サービスに関して進取の気性に富む、伝統的な商業都市である。例えば、1730年に開設された堂島米会所(江戸時代の米穀取引市場)の先物取引が、現在のオプション取引モデルの先駆けとなっている。また、現在では当たり前になっている鉄道の自動改札を導入したのも、大阪である。67年に、阪急千里山線の北千里駅で、世界で最初の自動改札システムが運用された。このような進取の気性は、現在、全国で唯一の後払い型電子マネーシステムPiTaPaの導入や、PiTaPaにまつわる様々な付加価値サービスの実現にも、受け継がれている。

 一方、「大阪のおばちゃん」に代表されるサービス利用者としてのコスト意識も、ほかの地域に比べて高いように思える。このように大阪、広くは、関西という地域は、サービス・イノベーションの事例分析や、活動を展開するうえで、歴史的、文化的にも非常に示唆に富んだ土地柄である。

 ところが、このような商業都市としての利点が、近年、うまく生かされていないようだ。都市全体としての生産性向上に結び付いていないばかりか、本社機能の東京移転など、東京一極集中化の中で、日本第2の都市である大阪の存在意義が揺らいでいる。

 いろいろな要因が考えられる。1つは、商業(サービス業)に従事する企業が多く、しかも、飲食業や宿泊業など、多種多様の業種の中で、成功事例など知識の蓄積・共有がうまくなされていないことが挙げられる。つまり、製造業における業界団体のような組織が、業界全体の生産性向上に寄与していたのに対し、そのようなコミュニティー組織が、サービス業にはあまり存在していなかった。さらにいえば、大企業を中心とした製造業の業界団体を、そのままサービス業に当てはめても、うまく機能させるのは困難であろう。

 このような状況の中で、サービス産業の生産性向上に関し、“ゆるやかな情報共有”を目指して組織化されたのが「関西サービス・イノベーション創造会議」である。2008年9月に、大阪商工会議所と近畿経済産業局とにより、産官学連携組織として設置された。地域を挙げたこのような取り組みとしては、全国で初めての活動である。現在、企業85社を含む、約100弱の組織・団体などが参加している。筆者は、座長として、また、京都大学経営管理大学院特定准教授の前川佳一氏が、副座長として、会議運営に参画している。

 同会議では、サービス産業が抱える課題の解決を目指し、先進的な事例紹介・技術発表のためのセミナー開催(全体会議)やテーマ別のワーキンググループ活動を行い、情報蓄積・共有を行っている。このような活動を通じて、実際のサービスの生産性や質の向上、並びに革新的なサービス・モデルの検討・開発などに取り組んでいるところである。

 大阪ガスグループ(大阪ガス行動観察研究所、エルネット)における行動観察調査と、具体的なサービス現場での実証実験とは、本創造会議の活動成果としても、多くの参加者に評価されている。例えば、日本商工会議所のサイトなどを参照されたい。

 以下では、大阪ガス行動観察研究所と、行動観察手法を活用したサービス現場改善プロジェクトについて概要を紹介しよう。