「COBOLの互換性がなくなることはない」――。COBOLの国際標準規格を決定する委員会の主査を務める高木 渉氏は、こう断言する。同氏は、日本におけるCOBOLベンダーの任意団体、COBOLコンソーシアムの会長でもある。COBOLの未来を最も知っている高木氏は、「規格委員会もCOBOLベンダーも、いじましいぐらいに互換性を保っていく」と語る。(聞き手は井上 英明=日経コンピュータ、写真は西田 香織。COBOLコンソーシアム主催「COBOL誕生50周年記念セミナー」の詳細はこちら

(写真・西田 香織)

COBOLの国際規格委員会における主査の役割は。

 主査(convenor)とは、委員会の議長のような立場です。年1回開かれる会議の進行が主な役割です。私は日本の立場を離れ、投票権はありません。ただ票が同数で割れた場合には、私に投票権が発生します。もちろん、そうした事態が起こらないように調整することが大事です。だから、主査は最も偉いんですよ(笑)。

 私は2009年9月から主査を務めています。日本人で主査になったのは、少なくともCOBOLでは私が初めてです。委員には、日本のほかに、米国、英国、オランダなどの代表12人が名を連ねています。

 主査に推されたのは、規格作りの経験が最も長いからだと思っています。国際規格の場に参加するようになったのは1996年からです。ちょうどCOBOL2002の策定が佳境を迎えていたころです。オブジェクト指向言語との対応関係をどうするかを決めました。

 委員会の下部組織では、私は日本の代表として発言もしますし、投票権もあります。COBOL2002を決めたときは、日本語をCOBOL規格で扱えるようにするため米国委員会などと交渉を重ねました。

第5次規格の策定が進んでいると聞く。

 はい。オフィシャルには第5次規格は2011年の完成を予定している「COBOL2011」です。ISO(国際標準化機構)のルールでは、基本的に5年に一度バージョンアップしますが、COBOLは例外です。正直にいえば少し策定が遅れていますので、何とか間に合うように仕上げたいと頑張っているところです。

COBOL2011における変更点は少ない

 COBOL2002では、従来の構造化プログラミングにオブジェクト指向を追加するなど大きな変更を実施しました。ですが、COBOL2011では、そのような大きな進展はありません。既にCOBOLは円熟の域に達しようとしています。個人的には、将来的にもCOBOLには、COBOL2002のようなパラダイムシフトは起きないのではないかと思います。

 それでもいくつか新しい機能が追加されるとみています。現在審議中ですので、もしかすると追加されないかもしれませんが、そのうちの二つを紹介しましょう。一つは動的に大きさを変えられる表の追加です。

 例えば、アンケートの集計プログラムなどで、回答者数に応じて表の大きさを変えられます。現状では、表の最大の大きさまでメモリーを確保する必要がありますが、その必要がなくなります。これは米国のあるユーザーグループから出た要望です。

 もう一つは、浮動小数点の取り扱いをIEEE(米国電気電子学会)準拠にすることです。金融システムなど、金額計算が求められるシステムで使われることが多いCOBOLですが、実は浮動小数点の取り扱いは国際規格で決まっていませんでした。各COBOLベンダーが独自に解釈してコンパイラを作っています。今回、IEEEが標準的な解釈を打ち出したので、それに準拠します。