政府は2010年3月5日に通信・放送の法体系改正案を閣議決定した。今回の法案は、現行の通信・放送の法体系を「伝送設備」と「伝送サービス」、「コンテンツ」という三つの視点から見直して、現在8本ある法律を、「放送法」「電気通信事業法」「電波法」「有線電気通信法」の四つに統合する。

 改正案では、放送について「基幹放送」(地上放送と特別衛星放送)と「一般放送」(それ以外の放送)という区分を設ける。基幹放送については、無線局の免許取得と放送業務の認定の二つの手続きを分離する制度を設けるとともに、地上放送の従来通りの手続き(ハード・ソフト一体型の手続き)も認める。放送と通信の融合法案に関しては、ハード(伝送設備)とソフト(放送業務)の手続きを分離することについて懸念する意見が放送事業者から出ていた。手続きが二つ分かれることが放送事業者の報道活動に与える影響を懸念する声を聞いた総務大臣の原口一博氏の意思もあり、従来の案に変更を加えることになった。さらに一般放送に該当するケーブルテレビ(CATV)と電気通信役務利用放送については、参入についての制度を見直し、「登録」を原則とする制度に統合する。

CATV事業者などの利用者保護の義務が通信並みに

 有料放送の契約約款については、基幹放送事業者の現行の認可制を届け出制に緩和する。一般放送事業者に関しては、約款の届け出は不要にする。その一方で、契約者への提供条件の説明義務などに関する規定を整備する。契約約款情報の利用者への提供は、利用者利益の確保や向上にかかわる。通信・放送の法体系における利用者保護規律については、情報通信審議会の「通信・放送の総合的な法体系に関する検討委員会」が議論を進めてきた。この答申では、「現行法制における利用者向けの情報提供義務の差異解消、利用者保護・受信者保護の観点から有料サービス契約に関する規律の整合化を図ることが適当である」としていた。今回の改正案が成立すれば、CATV事業者や衛星放送などにおける有料放送事業者は、利用者保護に関する取り組みについて通信事業者と同様の義務を負うことになる。

 CATVによる地上放送の区域外再送信に関する紛争処理についての項目も盛り込まれた。紛争の迅速で円滑かつ専門的な解決を推進するため、「電気通信紛争処理委員会」の機能を拡大して、あっせん・仲裁制度を整備する。地上放送事業者とCATV事業者の協議がまとまらなかった場合、行政が法的な根拠に基づいて、あっせんや仲裁に乗り出せるようにして、「伝家の宝刀」である大臣裁定制度を使わずとも問題を解決することを目指す。

 これ以外には、番組調和原則の適用を受ける基幹放送事業者(総合編成を行う地上放送事業者や一部のBS放送事業者)に、番組の種別の公表を義務付ける項目が盛り込まれた。放送事業者は、番組をそれぞれ「教養」「報道」「娯楽」などの区分に分けなければならなくなる。一般放送事業者に分類されるCATV事業者や電気通信役務利用放送事業者は対象外となる。

 さらに、日本放送協会(NHK)の役員人事や経営委員会についての項目も盛り込んだ。放送機器(送信機と受信機)メーカーや新聞社などの出身者が退社してから1年間を超えなくても、会長や副会長、理事に就任できるようにする。NHKの幹部を選ぶ際の制限を緩和して、放送機器メーカーや新聞社の出身であっても本人に十分な力量があれば選出できるようにする。さらに会長が経営委員会で議決権を持ち、経営委員会の意思決定に参加できるようにする。

 マスメディア集中排除原則については、放送法に盛り込んだうえで緩和する。緩和の内容は、一定の範囲内(10分の1から3分の1)であれば、他局の株式を保有することを可能にする。現在のマスメディア集中排除原則の規定(放送対象地域が重複する場合は10%以下、重複しない場合は20%未満)よりも、他局の株式をより多く所有できるようにする。

 今回のマスメディア集中排除原則の緩和の背景には、「テレビ局やラジオ局の経営が厳しくなって、地方の報道や言論の拠点としての役割を果たせなくなることがあってはならない」という原口大臣の考えがある。民放キー局など比較的資本力のある事業者が、経営の苦しい地方局により多くの出資をできるようにして、地方におけるコンテンツ創造や報道の拠点を維持することが目的である。このため今回の規制緩和が適用されるのは、地方の放送事業者が経営危機に陥るといった事態が発生するなどのケースに限られそうだ。事業者の株式保有率の上限をどの程度緩和するかについては、総務省令で定める。

 電波監理審議会の事務範囲を拡大するための項目も盛り込んだ。電監審が放送に関する重要事項について、総務大臣に建議できるようにする。例えば、「放送における表現の自由を担保するためにこのような法改正を行うべきだ」といった問題提起を主体的に行うことができるようになる。なお、一つの事業者が多くのメディアを傘下に置く「クロスオーナーシップ」に関する規制についての項目は、附則として盛り込まれた。