情報システムの“ユーザー企業”にとって、情報システムをどう活用すれば競争力を強化できるのか。ITベンダーやシステム・インテグレーターなどの営業トークや提案内容を見極めるうえで何に留意するべきか。ITベンダーなどに何かを求める以前に、“ユーザー企業”が最低限考えなればいけないことは何か――。

 野村総合研究所で約20年間勤務した後に、人材派遣大手スタッフサービスのCIO(最高情報責任者)を務めて急成長を支え、『ダメな“システム屋”にだまされるな!』(日経情報ストラテジー編)の著者でもある佐藤治夫氏が、情報システムの“ユーザー企業”の経営者・担当者の視点から、効果的な情報化のための発想法を解説する。

 前回(第18回)は、成長企業が“ユーザー企業”として情報システムを活用する際には、「費用対効果」よりも「時間対効果」が重要だと説明しました。

 以下で、私が体験した実例について書きます。

「3年で2倍」の成長を続けた企業で起きていたこと

 私が「情報化推進者」を務めていた人材派遣大手のスタッフサービスでは、年商100億円あたりからの成長スピードが特に急速でした。3年間で事業規模を2倍にするという成長速度を維持していたのです。3年間を1サイクルとすると、5サイクルすなわち15年間で、事業規模を2の5乗=32倍にまで急拡大しました。100億円の中堅企業が年商3200億円の業界トップにまで急成長したのです。

 この過程で、スタッフサービスの経営陣が判断の基準にしたのが時間対効果でした。「それに何日かかるか」「何カ月かかるか」あるいは「何時間かかるか」「何分かかるか」という言葉が飛び交っていました。「そんなに時間がかかるのならば、着手する意味がない」と判断することもありました。

 現時点で、今起きている課題から解決策を思案する。しかし、もし解決策の実行に時間を要するのであれば、解決策が実行できた時に、その課題の優先順位は下がっているかもしれない。だとすれば、すぐできる解決策を片っ端から実行しよう。そんな、成長企業に特有な空気が流れていました。何となく、そこだけ地球の自転が速く、時間の流れが速かったような気さえしました。

市場が飽和するまでが勝負の分かれ目

 成長企業は環境に順応した生物の種に似たところがあります。例えば、海外から日本にやってきた外来種のアメリカザリガニやブラックバスは日本の自然環境に順応し、飽和と呼ぶべき状態になるまで増殖を続けました。その増え方は「右肩上がり」どころではなく、「倍々ゲーム」「ねずみ算」あるいは「指数関数」と表現すべきものでしょう。スタッフサービスは3年で2倍でしたから、まさに指数関数的な成長だったと言えます。

 成長企業もいつかは市場の飽和を迎え、成熟企業になります。しかし、成熟企業に到達するまでの所要時間の長短は極めて重要です。いつまでにどのステージに上るか、どのポジションを獲得するかは、成熟企業になったときに大きな差として表れます。短い所要時間で成長した企業は、成長に時間がかかってしまった企業よりも、市場が飽和した時点でのシェアは大きいものになり、様々なメリットを享受できます。だとすれば、時間が最重要の要素であり、時間対効果を最初に検討するべきではないでしょうか。