スマートフォンとは全く別の領域でも,Androidをベースにしたネット端末投入が始まっている。NTT東日本のデジタル・フォトフレーム「光iフレーム」(仮称)や,NECビッグローブの「クラウドデバイス」(写真1)がそれ。既に両社ともモニター・ユーザーに端末を配布して試験サービスを提供している。どちらの端末もタッチパネル型で,位置付けはスマートフォンとパソコンの中間。ユーザーが手軽に持ち歩けて,各種の情報やコンテンツを簡単に表示できることを重視している。
ISP関連事業を手掛けるフリービットも,同社が開発したマルチデバイス対応のWebサーバー・ソフト「ServersMan」を標準搭載したAndroid端末の提供を計画している。同社は既にServersManを搭載したビデオカメラを提供するなど家電事業を展開中。Androidでも同様の取り組みを考えている。
さらに今後は,特定のWeb関連サービスを利用するだけの単機能端末が登場してくる可能性もある。拡張現実(AR)のアプリケーション「セカイカメラ」を開発している頓智・(とんちどっと)は,Androidを使った端末の開発を検討している。「サービスを拡大するための手段として,Androidを活用していく」(頓智・の渡辺知男エンベデッドシステムアーキテクト)。
米アマゾン・ドットコムの電子ブック・リーダー「Kindle」のような,ユーザーが通信機能を意識することなく利用できる製品も増えそうだ。MVNO(仮想移動体通信事業者)としてサービスを提供すれば,「どんな企業でも,端末販売からアプリケーション提供までをセットにしたサービスを提供できる」(日本通信の福田尚久常務取締役CMO兼CFO)。
安く,短期に作れるからメーカーが食い付く
こうした新端末が相次いで登場している背景には,メーカーがAndroidを採用することで,従来に比べて,コストを抑えながら,しかも短期間で端末を開発できるようになったことがある(図1)。例えばNECビッグローブがAndroid端末を企画し,メーカーの台湾カマンギと開発を始めたのは2009年初頭。その後の開発には1年とかからず,12月には端末を発表,2010年2月には試験サービスを開始した。NECビッグローブの山本善清商品企画グループパーソナル事業部マネージャーはAndroid採用の効果を,「各種機能のフレームワークからアプリの開発プラットフォームまでがそろっており,迅速に開発できる。さらにハードウエアは世界的に流通している汎用的な部品だけで済むからコストを抑えられる」と説明する。
Androidを構成する各種ソフトウエアの成熟度の高さは多くの開発者が認めるところだ。組み込み用Linuxなどオープン化を前提としたプラットフォームは以前から存在していたが,「製品のプロジェクトごとに新しいフレームワークやアプリを開発する必要があった」(米ミップス・テクノロジーズの中上一史日本支社長)。
この点,AndroidではWeb表示機能などネットワーク接続を前提とした機能や,アプリの実行環境が標準的に用意されているため,開発期間を短縮でき,コストを抑えられる。かつては,ハード/ソフト含めて携帯電話をスクラッチで開発するには,数百億円の費用がかかると言われた。それがAndroidでは,「開発から製造までのコストが数億円規模で済む」(日本通信の福田CMO兼CFO)。
Android上に独自機能を追加する場合に,一度開発したソフトウエアを再利用しやすい点もメリットである。例えばKDDI研究所は,Androidを使ったセットトップ・ボックス(STB)を開発し,メニュー画面を表示するアプリや動画デコーダ,TransferJet用の制御ソフトを自前で作成した(図2)。「今後,制御チップなどハードウエアを変更した場合でも,アプリや制御ソフトの一部を流用できる」(KDDI研究所開発センターの伊藤篤主幹エンジニア)ことから,新たな製品を開発する際の効率化や低コスト化が実現できるという。