抜け・漏れや矛盾・主観がある非機能要求は,情報収集や整理・分析で苦労する。表記法も確立しておらず,誤解を生じさせないドキュメント作りも不可欠だ。万能薬は存在しない。これらを解決するには現場の知恵や工夫が求められる。

 「最も難しいのは,いかにして要求の抜け・漏れをなくすか」。こう強調するのは,野村総合研究所の田代太一氏(システムコンサルティング事業本部 ITアーキテクチャーコンサルティング部 上級システムコンサルタント)だ。田代氏は2008年秋,同じ職場の島田岳雄氏とともに,これまで参加したプロジェクトの経験から明らかにすべき約200の非機能要求項目をヒアリングシートとして整理した。このシートにより非機能要求に関する確認項目が明確になり,「抜け・漏れが確実に減った」(田代氏)とその効果を実感した。

 抜けや漏れをなくすには,ユーザーへの質問内容をまとめた「ヒアリングシート」の作成が基本となる。非機能要求項目に関する国際標準「ISO/IEC 9126」などがあるので,それらを参考にシートを作成することが考えられる。だが田代氏は「(標準規格は)参考にはなるが汎用性が高い。具体的な項目にするために,現場の経験を基に整理した」と説明する。

 電通国際情報サービスの下山一郎氏(エンタープライズソリューション事業部 コンサルティング7部 プロジェクトディレクター)はさらに,ヒアリングシートに独自の工夫を凝らす(図1)。ヒアリング内容をできるだけ具体的にまとめ,各要求を構造化して抜けや漏れを確実につぶすよう心がけた。また,「クライアント負荷:他の作業の有無」(PCでほかに作業をしていないかどうかを確認する,という意味)などヒアリング時のポイントも明記している。さらに,要求の背景や,どのメンバーが主体的にかかわったのかも分かるようにした。こうしたことを押さえておけば,「ほかに考えられる要求がないか」といったことを想像しやすくなる。例えば,アプリケーション担当がメインでかかわった要求があった場合,それをインフラ担当の視点で見ると,別の要求が考えられるかもしれない。

図1●抜け・漏れなくすヒアリングシートを活用する
図1●抜け・漏れなくすヒアリングシートを活用する
やみくもに情報収集すると,時間がかかる上に抜けや漏れが生じやすい。電通国際情報サービスの下山一郎氏は,過去の経験から非機能要求のヒアリングシートを作成。要求項目を構造的に整理したほか,ヒアリング時の確認ポイント,主要メンバーとの関係などを明確にしている
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