NTTドコモの山田隆持社長は2010年1月末の決算説明会で,米アップルが発表したばかりの新端末「iPad」について「前向きに取り組みたい」と発言した。

 iPadはSIMロックフリー端末のため,アップル自身が販売する見込み。そのためドコモはSIMカードだけの提供を検討している。同日開催されたアナリスト説明会では同社の辻村清行副社長が,iPadが採用する小型SIMカード「microSIM」を実際に見せる場面もあった。

 SIMカード単体の発売となると国内の大手携帯電話事業者では初。端末からサービスまで垂直統合モデルを推進してきた従来のドコモの取り組みからは驚きの転換に見える。

 もっともその布石は見えていた。例えばこの数カ月で,ドコモ販売店で最も目立っているのはデータ通信カード。ドコモの通信モジュール内蔵のネットブックも数機種発売済みである。「iPadは通信モジュール内蔵の洗練されたパソコン」と山田社長が語るように,既に同社は多様なオープン端末への対応を進めている。理由は,これらの端末を使うユーザーのパケットARPU(ユーザー1人当たりの月間平均収入)が高いからだ。PCユーザーのパケットARPUは4000円台後半と,2500円弱の同社の平均パケットARPUよりもはるか上を行く。かねてから山田社長は「パケットARPUの上昇が経営の根幹」と強調。iPadへの対応もその一環というわけだ。

 オープン端末への対応はネットワーク帯域を圧迫し,通信事業者を単なる“土管化”しかねない諸刃の剣でもある。にもかかわらずドコモが取り組みを進める理由は,これらの懸念を解消できる自信を得たからではないか。だとすれば,ドコモは今後いっそう,オープン系端末を取り入れていくかもしれない。