行政改革でしばしば出てくる話題に「職員の意識改革」がある。講演などでも「どうすれば変わるでしょうか」といった質問が出る。

 私の答えは悲観的だ。「人の意識は簡単には変わらない。代わりにむしろ行動を変えてしまったほうが手っ取り早い」というものだ。

 誰しも何らかの改善意欲はある。決して現状に甘んじてよいと考えているわけではない。改革の必要性には薄々気がついている。心の底で反省もしている。そして年初や新学期には「よし、明日から生まれ変わろう」と決意をしたりもする。だが人は性善にして怠惰である。しょせん決意は長続きしない。集団の意識も同じだ。人事異動や制度変更を機に少しは刷新されるが、すぐに元にもどる。「昔からこんなもんだ」「やってもやらなくても同じ」といった惰性に流されるのだ。要するに人の意識や組織風土を直接変える方法はない。

 そこで筆者はむしろ「コミュニケーション」の方法を変えることを提案する。例えば以下のような方法である。

(1)オフサイトミーティング
 これは職場で月2回程度、みんなで会議室に集まってランチを食べる。話題提供者を持ち回りで決めて何のテーマでもいいから5分しゃべる。出張の報告、家族のこと、趣味のこと、仕事の課題など何でもいい。とにかくしゃべる。それを糸口に連歌のように話題を広げていく。しゃべっているとお互いに理解が進む。少なくとも何か必要なときに声をかけやすくなる。ただこれだけのことだ。だが意義は大きい。なぜなら最近は職場の飲み会がない。昼間の会議も効率化され、無駄話をあまりしない。一日中パソコンに向かい合う職場も多い。職員同士が会話をする場をつくる必要があるのだ。

(2)アンケート
 年に2回、無記名で「首長(社長)に言いたいこと」というアンケートをやる。質問項目は2つだけだ。ひとつは「日常、あなたが仕事をする上でおかしいと思う制度や規則を挙げてください」というもの。もうひとつは「もしあなたが組織のトップだったらやりたい政策を提案してください」というものだ。記述式で様式は自由だ。何もない人は出さなくていい。いろいろあれば紙を足してもいい。要は「トップに対して言いたいことが自由に言える」環境を確保する。言ったことが実際に実行できるかどうかは考えすぎない。言ってみることがまずは大事なのだ。

(3)ホームページ(HP)
 各部門、組織全体(全庁)のHPを市民の目線で点検してもらう。そこからヒントを得てHPを使いやすいものにする。あるいは使いにくさの背後にある縦割り組織間の業務の分担ルールまで見直す。HPの見直しにはいささかのセンスとITの技術知識が要る。そのため作業はおのずと若手、女性が中心になる。幹部はあまり口が出せないのだがそれが逆によい。「たかがHP。されどHP」である。HPという表の世界を変える過程で中身(業務の仕方)も変えていくのである。

(4)カタチの改革(はんこ、会議、席配置など)
 営業の世界には昔から「カタチから入る」という言葉がある。とにかく飛び込み営業を繰り返す。そこから営業のコツを体得するといった人材育成法である。この考え方は意識改革にも役立つ。意識を変えるよりも仕事のやり方やルールを変える。型や方式を変えることから始めてみる。

 組織風土を決める上で大きいのが会議と決裁の方法である。例えば会議の資料はA3判を禁止にする。「資料はA4判で5枚以内、説明は10分以内」といったルールを決める。あるいは遅刻すると誰でも貯金箱に1分で100円入れる規則にする。上司をいつも「さん」付けで呼ぶ。あるいは決裁のはんこの数は3つまでと決める。起案者とトップと後は間の一人だけになるから意思決定のスピードが飛躍的に速くなる。

 さらに大きいのは机の配置を変えること。最もラディカルな方法は「フリーアドレス制」である。これは職場で個人別の定席を決めない。来た人からその日、空いている席に座る。課長の席は窓のそばだとか椅子が大きいといった区別も取り払う。

 これらは全部「カタチ」から変えるというものだが、コミュニケーションの仕方を変える方法だとも言える。職場のコミュニケーションといえば最後にもうひとつ。朝の挨拶である。沈滞した組織では朝の挨拶がない。「おはようございます」が飛び交う職場にする。当たり前のようだができていないとしたら危険だ。まずは明日から、とにかく挨拶だ。

上山 信一(うえやま・しんいち)
慶應義塾大学総合政策学部教授
上山信一

慶應義塾大学総合政策学部教授。運輸省,マッキンゼー(共同経営者)等を経て現職。専門は行政経営。2009年2月に『自治体改革の突破口』を発刊。その他,『行政の経営分析―大阪市の挑戦』,『行政の解体と再生』など編著書多数。