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第97回 アジア経済社会サミットに出てわかったこと

2010/03/15

 2月24、25日、香港で「アジア経済社会サミット」が開かれた。テーマは世界経済危機が各国経済と社会に与える影響を考えるというものだ。北京大、ソウル大などアジア各国の経済学者、社会学者、政府アドバイザーが集まった。招聘(しょうへい)状を受け取ったとき、私は瞬間的に「輸出依存度の高い小国はきっと大変なのだろうな」とやや他人事風に考えていた。だが日本代表としての発表準備をするにつれ、日本が最も深刻な課題に直面していることに気づき愕然(がくぜん)とした。

 まず、リーマンショックで日本のGDP(国内総生産)は2008年から2009年にかけて6%も落ち込んでいる。これは主要国中で最大の落ち込みである(米国はマイナス2.6%、EUはマイナス4%)。

 会議に出てからもいろいろな発見があった。まずは中国の別格ぶりだ。内需で自律成長している。また小さな国(シンガポール、香港)、経済が中国に密接に組み込まれつつある国(韓国)ほど回復が早いとわかった。後者の意味は2つある。中国の内需に支えられること、そして生産性の低い製造業などが中国に移転し、代わりに中国企業向けの都市型サービス業(金融、調査、研究開発など)が芽生え、産業構造が高度化するということだ。

 だめなのが日本と台湾だった。ともに対米輸出依存度が高い。対中貿易の姿勢が定まらない。地方の非効率な地場産業が中国からの輸入品に脅かされている。台湾ではこの際、米国や日本への依存度を下げて中国との自由貿易協定を結ぼうという意見も出ているそうだ。

 さて、私は日本について以下のような報告をした。

(1)多くの日本人は「今回の経済危機は米国の投資銀行の問題。自分たちは被害者」と考えがちだ。日本のGDPの下落幅が世界一という事実もあまり知られていない。20年来の経済不振に慣らされてしまったということもある。

(2)日本経済が大打撃を受けた原因は輸出依存を脱しきれないからだ。例えば2008年第4四半期のGDPの対前期比落ち込みの7割以上が輸出減によるものだった。自動車輸出が特に米国の住宅バブルの恩恵を受けていたという事情も大きい。だが輸出減は欧米向けだけではない。中国の輸出産業向けに工作機械や部品を輸出していた。それも減ってダブルショックとなった。

(3)輸出依存の危うさと内需拡大の重要性は語られて久しい。だが政権が代わっても国内サービス産業の規制緩和や官製市場の開放が一向に進まない。例えば成長産業になるはずの医療や介護も保険制度の下で価格が統制され、おまけに供給制限がかかっている(医大の新設抑制や保育所認可制度など)。また大阪、名古屋などの大都市の交通(地下鉄、バス)、水道などのインフラ産業も非効率な官営形態のままだ。官民両方の既得権益と過剰な規制に阻まれ、都市型のサービス産業が拡大しない。

(4)政府は財政赤字に悩み、優良企業は海外投資に走る。そんな中、個人(家計)は金融資産(約1400兆円)を保有する。これの流動化が大事だ。だが人々は将来展望が見えなければお金を使わない。例えば託児所と老人ホームが足りない。若い夫婦も富裕な中高年層も生活の不安が先に立ち、貯金に走り、お金を使わない。子ども手当も結局は預金に回り、金融機関経由の国債購買に化けるだろう。結局、国内では政府だけが積極的に借金と資産を拡大し続ける。それがますます国内経済を官僚化させ、人々を政府依存にする。ひいては社会を閉塞させるという悪循環に陥りつつある。

(5)日本の問題は国内問題にとどまらない。国内の余った資金が米国に出て行き悪さをしている(円キャリートレード)。リーマンショックの一因は日本の金余りにもある。日本は加害者でもある。

(6)日本の構造改革の遅れはもはや国内問題にとどまらず、世界全体のリスクである。だが民間経済を「輸出から内需へ」振り向けるためにあらゆる工夫をするべきだ。その意味で「コンクリートから人へ」の政策転換や安易な公共事業の抑制は正しい。だが今後は医療・介護・福祉・教育などヒト関係産業の規制緩和が大事だ。それで1400兆円の個人資産が動き出す。また都市部の水道や地下鉄の民営化、政府資産の払い下げが必須だ。なぜなら社会資本は総額で約700兆円にもなる。それの流動化も大事だ。

 以上が私の報告だが、アジア各国の代表の反応は興味深かった。「輸出依存経済からの脱却問題は日本だけでない。すでに韓国が直面し、ほかでも懸案になりつつある」という。また「輸出依存の相手が米国から中国に替わりつつあるが安全保障面では不安が増す」という。どうやらアジア各国は米国と中国への輸出依存を脱するための内需拡大という共通課題に直面しつつある。各国は日本がこの課題をどう解決するか、期待をしながら見守っている。

上山 信一(うえやま・しんいち)
慶應義塾大学総合政策学部教授
上山信一

慶應義塾大学総合政策学部教授。運輸省,マッキンゼー(共同経営者)等を経て現職。専門は行政経営。2009年2月に『自治体改革の突破口』を発刊。その他,『行政の経営分析―大阪市の挑戦』,『行政の解体と再生』など編著書多数。

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