最後は「仕事が属人化していて別の人が業務を継続できない」という課題だ(図1)。通常も問題になるが,被災時は深刻な事態を招く。「このシステムはあの人にしか分からない」という状態では,災害時に迅速な復旧は望めない。

図1●災害時のIT現場の活動を円滑にするための課題4
図1●災害時のIT現場の活動を円滑にするための課題4
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 属人化対策は通常,担当替えによって解消するのが基本である。パンデミックの際は欠勤率の上昇も考慮して体制を組む。優先する業務をあらかじめ決めておき,同じ業務を複数の担当者がこなせるようにする。

 東京ガスグループのティージー情報ネットワークには,協力会社の社員を含めて約200人の運用要員がおり,パンデミックが発生するとこの中の40人が対策に当たる。20人ずつ二つの班に分かれ,「交代で各班が2週間ずつセンターに“籠城”し,ガス供給と保安確保を継続するシステムの運用を続ける」(基盤・運用サービス部長 中濱一芳氏)。複数チームで交互に同じ業務を遂行する仕組みは「スプリット・チーム制」と呼ばれる(図2)。

図2●2チームが交互に同じシステム群を管理
図2●2チームが交互に同じシステム群を管理
複数チームで交互に同じ業務を遂行する体制を作って,一つのシステムを必ず複数の担当者が運用する

 システム数は全部で約200あり,重要度の高い32システムが対象となる。その32システムの知識や管理権限を持つ担当者を優先して班に加えるが,普段も行っている担当替えなども組み合わせて各自のカバー範囲を広げている。各班で欠勤者が出たときには,あらかじめ決めた代行順位に基づき候補者を繰り上げる。優先運用するシステムの知識を代行者にも習得するよう指示している。

 同社の場合,運用の自動化を進め,異常がなければ特定の担当者を必要としないようにしていることも,属人化の緩和に一役買っているという。

 注意しているのは,属人化排除のためだからと担当システムの変更を頻繁に行わないことだ。「個々のシステムの障害対策ノウハウが本当に身に付くまでには,一定の時間がかかる。頻繁に担当を変えて知識が浅くなっては意味がない」(中濱氏)。

 パンデミック発生時は協力会社の欠勤が増えるリスクも現場の悩みだろう。東京海上グループの東京海上日動システムズでは,パンデミック対策の一環として,四半期に1回,社員が夜間業務に参加し,委託先のオペレータとともに運用業務に従事する制度を作った。小林賢也氏(ITサービス本部長 代理 兼 ITサービス管理部長)は「欠勤率が高まったとき,社員が委託先に交じって運用業務ができる」という。

被災時の出社・帰宅はどうする?

 災害時,交通網は麻痺する可能性が高い。その状況を想定し,自宅と会社などの間を行き来する訓練を行う企業がある。

 東京海上日動システムズは被災時に千葉県のバックアップ・センターと,メインとなる東京都多摩市のセンターへ出社する担当者をそれぞれ決めている。担当者は訓練で3年に1回,自宅とセンターの間の片道を最大約10km歩く。10km以上の場合は,10km圏まで電車で来て歩く。実際に歩いた小林賢也氏は「約2時間40分かかった。どこにコンビニがあって,どこの道が危険かなどを確認できる。どこで疲れるか持久力も自覚できる」と語る。神戸製鋼所も社員が自宅と神戸本社の間を歩く訓練を毎年行う。希望者が参加するが毎回100人を超すという。

 データセンター事業者は被災時に現場にとどまる準備をしているところが多い。富士ソフトのデータセンター事業部門では,各センターに5日分の非常食を常備している。加えて,センターごとに最低1人の社員が徒歩30分以内の社宅に住み,被災時に状況確認などを支援できるようにしている。「センターでけが人が出た場合などを想定している」(ソリューション事業グループ アウトソーシングユニット データセンターディビジョン ディビジョン長 稲葉直高氏)。