二つ目は「情報が正しく伝わらない,連絡してもつながらない」という課題である(図1)。富士ゼロックスでは,BCP(Business Continuity Plan)の一環として,あえて深夜1~2時に電話をかける緊急連絡訓練を行っている。岡部博仁氏(情報通信システム部 プロジェクト推進グループ)は「平日昼間のようには通じない。連絡ルールが甘いと,すぐ連絡が滞ってしまう」という。自然災害はいつ発生するか分からない。深夜や早朝の時間帯でも情報が正しく,確実に伝わるように準備しておかなければならない。

図1●災害時のIT現場の活動を円滑にするための課題2
図1●災害時のIT現場の活動を円滑にするための課題2
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 このように,災害時の連絡網は,必ず整備するものの一つだが,侮ってはいけない。災害時には一部の人に連絡がつかないことを前提に,手段とルールを決定したい。

 神戸製鋼所とコベルコシステムでは,携帯メールによるメーリングリストを,災害が発生したときのシステム関係者の緊急連絡手段に定めている。併せて,メールで連絡できないときは電子掲示板など代替手段を使う。

 メール送信先の更新と確認は頻繁に行っている。「3カ月に1回,最新情報に更新し,年3回の訓練のときに実際に送信して確認する」(コベルコシステム 小山氏)。それでも全員に連絡が届かないことがある。携帯メールの場合,PCが出すメールを受信拒否していることが原因の一つだった。会社導入の携帯電話に多く,「送信テストでは初めのころ約1割にメールが届かなかった」(小山氏)という。

 電話連絡の場合は,連絡がつかない場合をルールに盛り込む。その際,「制限時間」を設けるとよい。

 富士ゼロックスの深夜の緊急連絡訓練では,次の正・副の担当者のいずれにも15分以内に連絡がつかない場合はスキップして,次の次の担当者へ連絡するルールを採用した(図2)。

図2●誰にもつながらない事態を想定した電話連絡網の例<br>富士ゼロックスの深夜の緊急連絡訓練では,次の正・副の担当者のいずれにも15分以内に連絡がつかない場合はスキップして,次の次の担当者へ連絡する
図2●誰にもつながらない事態を想定した電話連絡網の例
富士ゼロックスの深夜の緊急連絡訓練では,次の正・副の担当者のいずれにも15分以内に連絡がつかない場合はスキップして,次の次の担当者へ連絡する
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 この連絡網は,障害などの発見者が電話してリーダーなどに情報をエスカレーションする際に用いる。「あらゆる事態を想定してルールを作った」(富士ゼロックス 岡部氏)。

ひな型文で正確さを高める

図3●被災時に流すメールのひな型の例
図3●被災時に流すメールのひな型の例
日立製作所のデータセンター事業部門では,地震の際に関係者に送るメールのひな型をあらかじめ作っている

 伝達内容の正確さは,ひな型文を使って高める。日立製作所のデータセンター事業部門では,センターに設置した地震計が震度3以上になった場合,異常を点検して,センターの担当者が関係者へ一斉に携帯メールを送る。10分以内に送る第一報やその後に送る第二報(いずれも電話の場合がある)について,ひな型を作った(図3)。穴埋め式になっており,日付やセンター名などを入れるだけで完成する。

 災害対策を担当している臼杵俊治氏(アウトソーシング事業部 データセンタ本部 運用設計部 技師)は,「被災してからメールの文面を考えると,パニックで無用な誤解を招く表現になる可能性がある。それを防ぐ」とその狙いを語る。

 パンデミック対策の場合,自然災害ほどの緊急連絡はないが,やはりひな型を用意しておくと確実だ。

 NTT東日本のデータセンター事業部門では,センター内の掲示物について,顧客への案内文を4パターン用意している。「第二段階(国内発生早期)」「第三段階(感染拡大期~回復期)」「警戒が解除になるとき」「センター内に感染者が発生したとき」といったように場合に応じて内容を変える。

 「パンデミック発生時は,予想外の作業が増える可能性がある。しかし,あらかじめ内容を決めて準備しておけば,誰が案内しても同じ対応になる」(渡邊氏)。