1. 新営業店システムの開発中,画面の表示が予想以上に遅いという問題に直面した
2. 2カ月間,原因を特定するため地道に対策を検討
3. 「頻繁にキー入力情報を取得する」ロジックが盲点,適宜省略し解決

 「正直,あの時プロジェクトはどうなるかと思った」。新営業店システム「CUTE」のプロジェクト・マネージャを務めた,三井住友銀行の奥田晃典氏(事務統括部 グループ長)は,プロジェクトの問題が判明した当時の心境をこう振り返る。

 CUTEは当初の計画通り2009年3月末に全面稼働したものの,システム開発には付き物ともいえる「想定外の問題」に悩まされた。その問題とは,「端末画面の表示に時間がかかりすぎる」というものだった。

 1画面の表示にかかっていた時間は平均2.2秒。この数字だけではピンと来ないが,「スピードが要求される銀行の窓口業務においては,使い物にならない遅さ」(奥田氏)である。目標速度は,旧システムと同程度である約1秒。三井住友銀行と開発ベンダーであるNECは,2秒から1秒へと半減させる「1秒の闘い」に挑んだ。

「10年前のシステムより遅い」

 事の始まりは2007年9月だった。ソフトウエアと専用ハードウエアの開発が一通り終了し,それらを組み合わせたユーザー受け入れテストを始めた時期である(図1)。

図1●三井住友銀行は新営業店システム「CUTE」の開発中,処理性能の問題に直面した
図1●三井住友銀行は新営業店システム「CUTE」の開発中,処理性能の問題に直面した
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 「画面表示が遅い」。三井住友銀行のプロジェクト・メンバーが受け入れテストを始めたところ,まず目に付いたのが画面表示のスピードだった。その様子を奥田氏は「パラパラ表示されるような感じ」と説明する。「約10年前に導入した旧システムの『WIT』よりも明らかに遅かった」(奥田氏)。

 銀行の営業店システムは,特に処理スピードが要求される情報システムの一つである。窓口担当者は営業店システムの端末を使って,口座の新規開設や現金の入出金,振込,通帳記入など,さまざまな業務をこなしていく。「窓口で対面している顧客を待たせないためにも,担当者の待ち時間を最小限に抑える必要がある」(奥田氏)。つまり,画面の表示速度は,窓口業務の生産性と顧客満足度に直結する。

 そもそもCUTEは,生産性と顧客満足度の向上を目指して企画されたものだった。三井住友銀行は2004年ごろから,競争力強化を目指して営業店における業務改革プランを練ってきた。CUTEはそのプランを具現化するインフラという位置づけである。

 目玉の一つは,画面のデザインと操作性だ(図2)。旧システムでは別々だった勘定系の画面と情報系の画面を1画面にまとめ,一覧性を高めた。複雑な事務処理の流れを画面上でガイドし,新人担当者やパートタイマーでも間違いなく作業を完了できるようにした。色遣いや文字の大きさは,デザインの専門家からのアドバイスを受け,疲労が蓄積しにくい設計にした。

図2●窓口担当者の生産性を上げるべく,CUTEでは画面に工夫を凝らした
図2●窓口担当者の生産性を上げるべく,CUTEでは画面に工夫を凝らした
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 だが,画面の表示スピードがこのような状態では,システムを新しくする意味はない。奥田氏は早速NEC側のプロジェクト・マネージャである尾出孝行氏(第一金融ソリューション事業部 統括マネージャー)と話し合い,画面の速度向上を「プロジェクトが最優先で取り組むべき事項」と位置づけた。

 システムの企画段階で三井住友銀行側からNECに要求していた端末の応答スピードは,旧システムと同程度。つまり,現在の所要時間である約2秒を,半分の約1秒へと縮める必要がある。約7000台という大量の端末を日本全国の約460店舗に配置する前に,2008年1月から一部営業店での稼働確認を行う。その前には問題を解決しておかなければならない。だが残された時間は正味3~4カ月程度と,決して余裕があるとはいえなかった。