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1. 新しい生産管理システムを導入したが,旧システムとの二重利用が続いた 2. 利用部門から新システムの問題や改修要望が噴出し,積み残しが64個に 3. 問題/要望を分析して集約し,その3分の2を三つの対策で解決した |
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富士山のすそ野の近く,静岡県の郊外に“ガンダムの聖地”がある。バンダイのプラモデル事業の拠点であるBHC(Bandai Hobby Center),通称「ガンダム工場」だ。
BHCでは,主要部材であるランナー(枠につながったプラモデル部品)のうち多色のものを製造する。単色ランナー製造,外箱製造,ポリ袋製造,最終箱詰めなどは,工程ごとに協力工場に委託している。これが,同社のガンプラ(ガンダムのプラモデル)製造体制の大きな特徴だ(図1)。
2006年秋,そのBHCで生産管理を担当する生産チームに,ある異変が起こっていた──。
「締め切りまであと30分…残り10分…あと5分!」。毎月20日ごろの締め日の深夜,悲鳴のようなカウントダウンの声がオフィスに響く。基幹システムでデータのバッチ処理が動き出す深夜0時までに伝票のデータを登録しないと,協力工場などへの支払いが遅れる。生産チームのスタッフは一心不乱に登録を急ぎ間一髪で完了する。「締め切りに間に合わせるため,深夜残業が常態化していた」。ホビー事業部で生産チームのリーダーを務める中田裕人氏は,当時をこう振り返る。
システムのデータを信用できない
原因は,新しい生産管理システムにあった。バンダイは2006年10月,原則としてアドオン開発なしでSAP R/3を全社で一斉導入した。このとき,生産管理の旧システムを,R/3の新システムに置き換える予定だった。しかしこのプロジェクトのスケジュールが遅れ,部材マスターの移行作業が間に合わなかった。そこで,システム部門と生産チームが協議の上,新旧の生産管理システムを当面,二重利用することにした(図2)。
二重利用は,業務の混乱を招いた。部材マスターは新旧システムそれぞれに存在し,途中から両者の食い違いが増えていった。旧システムから新システムへのマスター移行でデータ登録のミスがあったほか,その後に変更があったとき新旧システムの一方を修正し忘れたことなどが原因だった。
食い違いが増えたことで,「どちらのシステムのデータも信用できなくなった」(中田氏)。そのため生産チームは,生産計画や協力工場への発注などで不審な数字が見つかるたび,両システムのデータを突き合わせた。その結果,支払伝票のデータ登録が遅れるなど,深夜残業が常態化してしまったのだ。
この混乱を収拾するには,早くシステムを一本化するしかない。それでも生産チームには,旧システムをすぐには廃止できない理由があった。「新システムだけでは業務が回らなかったから」(中田氏)である。例えば新システムのMRP(Material Requirements Planning)を使うと,しばしば部材が不足した。その原因がBHC特有の業務フローにあることは後に判明したが,当時の生産チームは「新システムは計算を間違える」と考えた。
二重利用によって旧システムのデータにも間違いが生じていたが,新システムほど致命的ではない。業務を止めないためには,旧システムも使い続けるしかなかった。