欧州連合(EU)によると、今後数カ月で欧州のパソコン・ユーザー1億人以上が自らWebブラウザを選べるようになる。EUは、競争法違反の疑いで何年間も米Microsoftと争った行為をこの数字で正当化できると考えている。このEUの見通しは、EU地域向けの「Windows XP」「Windows Vista」「Windows 7」に通称「ブラウザ選択画面」を搭載するとしたMicrosoftの発表を受けて出された(関連記事:欧州向けWindowsにブラウザ選択画面、2月末から順次追加)。

 EUの競争法担当委員、Joaquin Almunia氏は「Windows付属以外のWebブラウザを使ったり試したりできる手段を消費者に提供することで、重要なWebブラウザ市場で競争が促進され、改革が進む」と述べた。恐らく同氏は、パソコン・ユーザーが最初から自由にWebブラウザを選べることなど知らないのだろう。

 Windowsにブラウザ選択画面の搭載が決まるまでの経緯を説明しておこう。EUの執行機関である欧州委員会(EC)は、負け組Webブラウザ・ベンダーのノルウェーOpera Softwareからの要求にしたがい、競争法違反の疑いでMicrosoftを提訴した(関連記事:Opera,MicrosoftをECに提訴,WindowsへのIEバンドル禁止などを要求)。その後Microsoftはブラウザ選択画面の組み込みというWindowsの改造を受け入れ、ECと和解した(関連記事:MicrosoftとEC,WindowsとIE抱き合わせ販売の問題で決着Microsoftが「IE」バンドル問題でEUに大きく譲歩した理由を推察する)。ほかの競争法違反問題でEUから数十億ドルもの制裁金を科せられているMicrosoftは、ほかに解決策がないと感じているらしい(関連記事:MSの競争法違反問題,欧州司法裁判所がECの是正命令を支持)。

 この「画期的」なブラウザ選択画面は、デフォルトWebブラウザに「Internet Explorer(IE)」を設定している場合だけ現れる。つまり実際には全ユーザーが面倒な選択作業を強いられるのだが、こうした情報はあまり報じられていない(「Firefox」のユーザーは一生涯Webブラウザの見直しを求められない、とでもいうのだろうか)。ブラウザ選択画面には、人気のある上位5種類のWebブラウザ(ただし、実際によく使われているのは2種類だけだ)と知名度の低い7種類のWebブラウザ(奇妙なことに、ほとんど誰も聞いたことがないようなものまで入っている)がランダムな順番で表示され、ユーザーの好みで選べる。

 しかも不思議なことに、Webブラウザ上位5つの表示を決めるMicrosoftのアルゴリズムに間違いがあるようなのだ。米IBMのブロガー、Rob Meir氏によると「この間違いの結果、ランダムに表示されるはずなのに、米Googleの『Chrome』がほかのWebブラウザより1番目になりやすい。そのうえMicrosoftのIEは最も1番目になりにくい。いたって初歩的な間違い」とのことだ。

 細かい話は抜きにして、笑止千万なユーザー・インタフェースを古いWindowsにまで追加する今回の対応策だが、過熱しているEUの競争法担当委員たちの頭を冷やす効果を狙い通り発揮するだろう。そしてEUは、Microsoftよりも明らかに危険なIT大手に集中して取り組めるようになる。その企業とはもちろんGoogleだ(関連記事:欧州委員会、グーグルを調査へ--独占禁止法違反の苦情申し立てを受け「Googleの主張は的外れ」、Microsoftの法務顧問が反論)。