ASP(Application Service Provider)からSaaS(Software as a Service)、そしてクラウドコンピューティングへ。コンピュータ・リソースやアプリケーションをネットワーク経由でサービスとして利用する形態は、IT業界の中では長い間、いつか来る道と認識されていた。それを表す言葉がこのように変遷するのは、実現が一筋縄では行かなかったことを表している。ITproのお薦め記事とともに、その軌跡を追う。

時代の分岐点

 ITpro上でSaaSという言葉が初めて登場したのは、今から4年前。2006年4月25日のニュース「SAPジャパンmySAP CRMを“SaaS”形式で提供開始、1ユーザー月額8400円」である。文中には「SaaS(Software as a Service)とは、ほかのアプリケーションと連携できるASP(アプリケーション・サービス・プロバイダ)形式のサービスのこと。米セールスフォース・ドットコムが提供するサービス「AppExchange」が代表例だ」との説明がある。

 2000年代半ば、それまでASPと呼ばれ下火になっていたサービスが、突如、SaaSという名前に衣替えしてブレイク。SaaSベンダー Salesforce.comが存在感を増し、マイクロソフトが「S+S(ソフトウエア+サービス)」というコンセプトを打ち出す――。折しも幾多の失敗プロジェクトを経て、Webシステムの要素技術や開発方法論が枯れてきたころ。各社が“ポストWebシステム”を模索し始めたわけだ。ここが時代の分岐点となった。

 SaaSとは、アプリケーションのサービス利用だ。2006年に提供が始まったAmazon EC2/S3は、アプリケーションではなくサーバーやストレージのサービス利用で、IaaS(Infrastructure as a Service)と呼ばれることになる。また、アプリケーション開発・実行基盤をサービス提供するGoogle App Engineが2008年4月に登場し、これはPaaS(Platform as a Service)と呼ばれる。これらを総称したものが、クラウドコンピューティングと呼ばれるようになった。ITproがクラウドを最初に取り上げたのは、2007年10月9日の「GoogleとIBM、大学向けクラウド・コンピューティング推進で協力」というニュースである。

 黎明期のクラウドの特徴は、ECサイトのAmazon.comや検索サービスのGoogleなどいわゆる情報システムのユーザー企業が、サービス提供事業者として登場したことである。それまでIT業界で技術やビジネスをけん引してきたハードウエア・メーカーやソフトウエア会社は、彼らの後を追う形となった。ITproではこの動きを、新しいアーキテクチャの台頭であると同時に、新勢力の台頭ととらえ、特集「クラウド、台頭」を掲載した。

 AmazonやGoogleのクラウドには当初、ベンチャーのIT企業や個人の技術者が飛びついた。時間単位で利用できるコンピュータ・リソースが、高価なサーバーを購入するのが難しい彼らに魅力的に映ったからにほかならない。パソコンやインターネットがそうであるように、IT業界では個人でブレイクしたものが企業の業務システムに展開していく傾向がある。クラウドもその例に漏れず、クラウド上に企業の基幹システムを移行しようという試みが始まるのは時間の問題だった。

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要するに何なのか?

 クラウドのわかりにくさの一つは、使う人やベンダーによってその意味がまるで異なることにある。言葉の問題を論じた「「SaaS」は新しいバズワードか?」(2006年5月公開)や「クラウドはバズワード、ってまだ言いますか?」(2009年2月公開)が多くのアクセスを集めたのは、「要するに何なのか」がわかりにくいからだろう。

 現在でも言葉の定義についての認識は、あまり変わっていないようである。つい半月前の2月26日に公開した「CIO公開質問状」を見ても、クラウドの定義はベンダーごとにバラバラである。正しく理解するには、クラウドを大きなトレンドとして俯瞰すると同時に、それぞれの技術を個別に詳しく見ていく必要がある。

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開発者向け実務情報

 クラウドは、トレンドを追いかけるフェーズから実際にシステムを実装するフェーズに入っている。ITアーキテクトやプログラマが、目の前の案件をクラウド上にどう実装するかを考えることを迫られるケースが、いよいよ増えてきそうだ。ITproでも、そうした現場で役立つ実務情報を数多く掲載している。

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日本発の技術

 クラウドには、キー・バリュー型データベースや分散メモリー、コンテナ型データセンターなど、従来のWebシステムとは異なる技術が多く使われている。これらの技術をけん引しているのは、いずれも米国の企業だ。だが、日本にもクラウドを支える技術を競う動きは、もちろんある。米国同様、大手ベンダー企業の取り組みだけでなく、高いスキルや意欲を持つベンチャーのIT企業や個人の技術者の活躍が目覚ましいところである。

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