2009年10月,韓国KTが新しいFMC(fixed mobile convergence,固定と携帯の融合)サービスを始めた。1カ月後の11月には,韓国SKテレコムもFMS(fixed mobile substitution,携帯による固定の代替)サービスを開始している。相次いで始まったFMC/FMSサービスの概要とその反響をリポートする。

(日経コミュニケーション編集部)


亀井 悦子/情報通信総合研究所 研究員

 韓国で,再びFMC/FMSサービスが盛り上がりを見せてきた。KTは2009年10月にFMCサービス「QOOK & SHOW」を,SKテレコムは同年11月にFMSサービス「T Zone」を始めた(表1)。過去には,KTが「One Phone」というFMCサービスを,韓国LGテレコムが「気分ゾーン」というFMSサービスを展開したことがあった。しかしこれらは一時的なブームにとどまり,サービスとして広く受け入れられるまでには至らなかった。

表1●KTの「QOOK & SHOW」とSKテレコムの「T Zone」の概要
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表1●KTの「QOOK & SHOW」とSKテレコムの「T Zone」の概要

 KTのFMCサービスやSKテレコムのFMSサービスは,以前のサービスとどのように違うのだろうか。

無線LANでVoIP通話ができるQ&S

 2004年にKTが提供を始めたFMCサービスのOne Phoneは,サービス開始からわずか2年で新規受け付けを終了した。屋外では携帯電話,屋内ではBluetoothによって固定電話が利用できるというものだったが,消費者に深く浸透することはなかった。

 これに対してQOOK & SHOWは,一つの携帯電話端末機で第3世代携帯電話(3G)のW-CDMAと無線LANの両方で音声通話を利用できるサービスである。サービス名のQOOK & SHOWは,固定電話やVoIP(voice over IP),ブロードバンドなどKTの固定通信サービスのブランドである「QOOK」と,携帯電話ブランドの「SHOW」をつなぎ合わせたものだ。

 QOOK & SHOWを利用すれば,無線LANが使える自宅などで無線LAN経由のVoIP通話が可能となる。通話料は固定電話へが3分39ウォン(約3円),携帯電話へが10秒13ウォン(約1円,3分では234ウォン=約18円)。通常の携帯電話からの通話は,固定あても携帯あても10秒18ウォン(約1.4円,3分では324ウォン=約25円)であり,特に固定への通話が大幅に安くなる。

 またKTは,韓国国内に約1万3000カ所の公衆無線LANアクセス・ポイント(AP)を保有しており,これら公衆無線LAN AP経由でもVoIP通話が可能だ。データ通信も公衆無線LAN APを経由した場合は通信料が無料となる。QOOK & SHOWを利用することによってユーザーは,音声通話料を月平均34.8%,データ通信料を同88%節約できるとKTは説明している。

写真1●KTの「QOOK & SHOW」対応端末<br>左が「KTT-F110」(韓国KTテック製),右上が「SPH-M7200」(韓国サムスン電子製),右下が「SPH-M8400」(同)。
写真1●KTの「QOOK & SHOW」対応端末
左が「KTT-F110」(韓国KTテック製),右上が「SPH-M7200」(韓国サムスン電子製),右下が「SPH-M8400」(同)。
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 One Phoneが普及しなかった大きな要因としては,当時の監督機関であった情報通信部(現放送通信委員会)が端末補助金の支給や料金割引などを許可しなかったことで料金メリットを出せなかったことが挙げられる。情報通信部は,KTの固定通信市場における市場支配力が融合サービスで行使される懸念があると見ていたからである。

 しかし現在は状況が大きく変わっている。2009年6月にはKTと子会社のKTFが合併し,現KTは固定通信と携帯電話の両方を手掛ける通信事業者となっている(関連記事)。放送通信委員会も,今のところQOOK & SHOWに対して規制をかける動きは見せていない。

 QOOK & SHOWに対応した端末は,2009年12月時点で3機種(写真1)。2009年12月1日に発売された最新機種の「SPH-M8400」(韓国サムスン電子製)は,W-CDMAと無線LANのほか韓国版モバイルWiMAXサービスの「WiBro」にも対応している。ただし,WiBro経由ではVoIPは利用できない。

 KTはW-CDMA,無線LAN,WiBroの三つの無線技術を活用しようという「3W戦略」を打ち出しており,対応端末の発売もこの戦略の一環だ。